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DX提案 - 初動実務④|なぜDX提案は正しいのに刺さらないのか

会議テーブルで女性が論点を整理して話し、同僚がノートPCを前に聞いている様子
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|提案の骨格はあるのに、相手に伝わる話にならない


提案の目的、課題の原因、打ち手、期待効果まで整理できている。それでも顧客から「話は分かるが、なぜ今それをやるのかが少し弱い」「現場の話としては理解できるが、上に上げるには足りない」と言われた経験はないでしょうか。

問題は、提案の中身が間違っていることではありません。骨格はある。ただ、それが相手にとって意味のある話としてつながっていない、ということです。言い換えれば、提案のロジックはあっても、提案ストーリーとして届く形になっていない状態です。

この「正しいが刺さらない」壁を越えるためには、提案の構成要素を増やすよりも、業務課題を経営判断へつなぐ論点の接続を見直すほうが有効です。本記事では、なぜその状態に陥りやすいのかを整理しながら、提案ストーリーをどう組み立てれば判断が前に進みやすくなるのかを見ていきます。

1. 課題と背景|なぜ提案は「正しいが刺さらない」状態になるのか


1-1. 骨格が整っていても、相手にとっての意味は自動的には立ち上がらない

提案の骨格が整っていることと、その提案が相手に伝わることは、同じではありません。

目的、原因、打ち手、効果を整理できていても、それが相手にとって「だから今判断すべき話だ」と見えなければ、提案は止まりやすくなります。たとえば、現場課題の整理が正確でも、その課題が経営上どういう意味を持つのかが見えなければ、上位者には部門内の改善テーマにしか映りません。逆に経営インパクトを強調していても、現場の実態や実行可能性との接続が弱ければ、話が浮いて見えます。

骨格は提案の土台ですが、そこに論点同士を意味のある順番でつなぐ接続の設計が加わって初めて、相手にとっての「意味のある話」になります。

1-2. 業務課題の説明は丁寧でも、経営判断には届きにくい

DX提案の現場では、業務課題そのものはかなり丁寧に整理されることがあります。どこに手間がかかっているか、どこに属人化があるか、どこで二重入力が発生しているか。こうした論点は、現場担当者にとっても、営業担当者にとっても扱いやすいものです。

しかし、その説明だけでは経営判断には届きにくいことがあります。上位者が見ているのは、現場で困っていること自体ではなく、その課題が全社最適、収益性、実行優先順位、事業運営にどう関わるかだからです。

大手邦銀のグローバル業務部に対してリスク管理ソリューションを提案していたとき、主要関連部門を集めた勉強会を複数回開き、現場担当者レベルの合意はほぼ取り付けることができました。しかし、臨時のステアリングコミッティで承認されないまま案件が止まりました。後になって分かったのは、各部門の担当者が上司の上司に提出したレポートが相当なボリュームになっており、幹部がそれを読んでいなかったという事実です。担当者が丁寧に仕事をした結果が、逆に届かない形になっていました。

現場課題を整理することと、それを経営が判断できる論点として届けることは、別の作業です。

1-3. 伝わらないのは説明量の問題ではなく、翻訳の粒度の問題である

提案が伝わらないとき、「説明が足りない」と考えがちです。しかし、DX提案では説明量よりも、翻訳の粒度が相手に合っているかどうかのほうが問題になることが多くあります。

現場担当者に対しては、どの業務がどのように変わるのかという具体性が必要です。一方、部門長や役員に対しては、個別業務の詳細よりも、その変化が部門や全社にとってなぜ意味があるのか、何を判断すべきなのかが見える必要があります。

話が通じていないのではなく、同じ内容を同じ粒度で出していることが問題になっている場合があります。DX提案では、何を言うかだけでなく、どの粒度で、どの論点を前に出すかが、提案の通り方を左右します。

2. 課題の構造|提案ストーリーとは、業務課題を経営判断へつなぐ翻訳の設計である


2-1. 提案ストーリーは「話し方」ではなく、論点をつなぐ設計である

提案ストーリーという言葉を使うと、プレゼン技術や話し方の問題だと受け取られがちです。しかし、DX提案で実際に機能するのは、話し方の巧拙ではなく、どの論点を、どの順番で、どうつなぐかという設計です。

現場課題を置く。その背景にある構造を示す。それが経営上どういう問題になるかをつなぐ。そのうえで打ち手と効果を置き、最後に判断材料へ落とす。この接続ができていれば、多少話し方が不器用でも、提案は伝わりやすくなります。逆に話し方が流暢でも、論点の接続が弱ければ「分かりやすかったが判断できない」という状態になります。

提案ストーリーは印象を良くするためのものではなく、判断可能な提案にするための設計です。

2-2. 現場課題の意味を、上位の判断軸まで引き上げる翻訳が必要になる

現場で起きている困りごとは、提案の重要な出発点です。しかし、そのままでは役員会や経営会議の論点にはなりません。上位会議で問われるのは、「現場が困っているか」だけではなく、「その課題に今、投資判断を伴う打ち手を講じる理由があるか」だからです。

たとえば、入力作業が煩雑、データが分散している、判断が属人化しているといった課題は、そのままでは業務改善の話に見えます。これを上位会議の論点にするには、その状態が収益性、在庫、顧客対応、事業スピード、ガバナンスなどにどう影響しているかまでつながなければなりません。

中期経営計画やIRで繰り返し示されている重点施策、収益性改善、供給体制の見直しといった論点と結びつけて示せると、その話は現場改善ではなく経営判断に値するテーマとして見えやすくなります。現場課題を消すのではなく、現場課題の意味を上位の判断軸まで引き上げる翻訳。これが提案ストーリーの核心です。

3. 解決策|提案ストーリーを組み立てる基本手順


3-1. まず「何を判断してほしいか」を起点に置く

提案ストーリーを組み立てるとき、最初に置くべきなのは「何を説明したいか」ではありません。相手に何を判断してほしいのかです。

検討を始めてほしいのか、PoCへ進んでほしいのか、予算化に向けて関係部門との調整を動かしてほしいのか。ここが曖昧なままだと、どれだけ丁寧に話しても提案は「参考情報」で終わりやすくなります。

提案ストーリーは情報を整理するためのものではなく、判断を前に進めるためのものです。だからこそ、最初に置くべきは説明の順番ではなく、判断のゴールです。

3-2. 次に「なぜ今それを判断すべきか」を経営課題につなげる

判断してほしいことが決まったら、次に必要なのは「なぜ今それを判断すべきか」を示すことです。単に困っていることを並べるのではなく、そのテーマが経営課題や事業課題にどうつながっているかを示します。

業務効率化ではなく、供給判断の精度、営業活動の再現性、在庫回転、顧客対応の速度、全社的な意思決定の質にどう関わるのかをつなぐと、その話は現場改善の要請ではなく、経営判断に値するテーマとして見えやすくなります。

この部分が弱いと、提案は「やったほうがよさそうな施策」には見えても、「今判断すべき案件」には見えません。課題を説明するだけでなく、その課題が経営上の判断論点になる理由までつなぐことが、ここでの設計ポイントです。

3-3. そのうえで「現場課題 → 打ち手 → 効果」を一続きの因果にする

経営課題との接続が見えたら、現場課題、打ち手、効果を一続きの因果としてつなぎます。ここが切れていると、打ち手は製品説明に見え、効果は希望的観測に見えやすくなります。

たとえば「データが分散しているから統合基盤を入れる」では弱いです。なぜ分散が問題で、それがどの判断の遅れや誤差につながっていて、どの打ち手によって、どの効果が出るのかまで、一つの流れで見える必要があります。この因果がつながると、提案は単なる機能紹介ではなく「なぜこの打ち手なのか」が見える話になります。

最後に、この流れを顧客担当者が社内で説明しても崩れない形に整えておくと、承認が進みやすくなります。論点が多すぎず、判断してほしいことが明確で、期待効果と前提条件が分かれている状態が目安です。

まとめ


骨格がある提案が伝わらないのは、内容が間違っているからではなく、論点が相手にとって意味のある順でつながっていないことがほとんどです。

提案ストーリーとは話し方の工夫ではなく、業務課題を経営判断へ翻訳し、判断される順に論点をつなぐ設計です。何を判断してほしいのかを先に定め、それを経営課題に接続し、現場課題から打ち手・効果までを一続きの因果で結ぶ。この組み立てができると、提案は「正しいが刺さらない」状態から少しずつ抜け出せるようになります。

自分の提案が今どこで止まっているかを、この順番で見直してみるところから始めてみてください。

【次に読むべきコラム】
👉️ 業務課題と経営課題の違い|DX提案が承認されない「翻訳ミス」3つの構造

【DX提案 - 初動実務】
👉️ 初動実務①|なぜDX提案は話が通じているのに止まるのか
👉️ 初動実務②|DX提案は何から始めるべきか
👉️ 初動実務③|なぜ提案の骨格は思いついた順に作ると崩れるのか
👉️ 初動実務④|なぜDX提案は正しいのに刺さらないのか
👉️ 初動実務⑤|なぜDX提案の資料は読まれても止まるのか
👉️ 初動実務⑥|DX提案が伝わっても前に進まないとき、どこを直すか
👉️ 初動実務⑦|導入事例をどう使えば判断が前に進むのか
👉️ 初動実務⑧|DX提案が伝わっても前に進まないとき、どこを直すか

【参考】CaseScenario™なら


提案ストーリーの設計で最初につまずくのは、「業務課題はある。しかしそれを経営の言葉に変える材料が手元にない」という状態です。IRや中期経営計画を読もうとしても、どこを起点に提案へ接続するかが分からず、作業が止まりやすくなります。

CaseScenario™では、IRや中期経営計画などの公開情報をもとに、業務課題を経営課題に翻訳した初期提案の設計図を整備します。何を判断してほしいのかという軸を先に立て、そこから経営課題、現場課題、打ち手、判断材料へと論点をつなぐ形で構成するため、案件化・検討開始・承認前進に必要な判断材料を初期段階で揃えることができます。20業界の経営課題テンプレートを活用しており、営業が提案に使いやすく、顧客担当者が社内説明に転用しやすい形で仕上げます。

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