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DX提案 - 初動実務⑥|なぜDX提案は伝わらず止まるのか

資料のグラフを示しながら、チームでPC画面を見て改善案を検討している場面
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|提案内容は評価されているのに、なぜか動かない


打ち合わせの場では「なるほど」「よく分かりました」と言ってもらえる。提案の方向性に大きな異論もない。顧客担当者との関係も悪くない。それでも、その後の検討が始まらない。関係部門への展開が進まない。上位会議に上がらない。こうした止まり方に、心当たりはないでしょうか。

提案が止まると、多くの場合「説明が足りなかったのではないか」「資料の情報量が不十分だったのではないか」という方向に思考が向きます。しかしDX提案では、説明を増やしても資料を厚くしても、状況がほとんど変わらないことが少なくありません。

止まる原因の多くは、説明の量や質の問題ではなく、提案が相手の判断の土台にうまく乗っていないことにあります。前提が揃っていない。抽象度が合っていない。相手が気にしている論点に届いていない。理解はされても、前に進めるための判断材料がまだ足りていない。こうしたズレが積み重なると、提案は「分かった」で止まりやすくなります。

このコラムでは、DX提案が「伝わらず止まる」状態になりやすい構造的な原因を整理しながら、どこを見直せば前に進みやすくなるのかを確認していきます。

1. 課題と背景|DX提案が「分かった」で止まりやすい理由


1-1. 提案が否定されているわけではないのに、検討が進まない

DX提案では、明確に否定されるよりも、「悪くないが今は動かない」という形で止まることがよくあります。顧客担当者は関心を示している。現場の課題感とも合っている。資料もそれなりに評価されている。それでも検討が進まないのは、提案がどこかで「判断に必要な状態」まで届いていないからです。

つまり、伝わっていないのではなく、前に進められる形では伝わっていない状態です。この違いを見落とすと、「もっと詳しく説明しよう」「補足資料を追加しよう」という方向に行きがちですが、そこだけを手当てしても止まる原因には届きません。

1-2. 説明量を増やしても、前進しないことがある

提案が止まると、多くの人は情報を足します。背景説明を増やす。機能説明を詳しくする。効果試算を厚くする。事例を追加する。よくある対応ですが、DX提案では、説明量の増加がそのまま前進につながるとは限りません。

むしろ、説明量を増やすほど、相手の関心軸から外れていくことがあります。現場が知りたいのは運用の現実感なのに、経営効果ばかりを語る。役員が見たいのは投資判断の理由なのに、現場の作業フローを細かく説明する。こうしたズレがあると、内容自体は正しくても、相手にとっての判断材料にはなりません。

DX提案が止まるとき、問題は「情報が足りないから伝わらない」ことよりも、「必要な論点の置き方がずれているから前進しない」ことの方が多いです。

2. 課題の構造|止まるのは、話し方より設計のズレである


2-1. 前提が揃っていないと、同じ説明でも受け取られ方がずれる

DX提案では、同じ説明をしても、相手によって受け取り方が大きく変わることがあります。その根本にあるのが、前提のズレです。

たとえば、営業側が「全社の業務効率化の第一歩」として提案していても、顧客側は「特定部門の作業負荷を減らすためのツール導入」として聞いているケースがあります。この状態で営業が全社への展開や経営インパクトを語ると、顧客には「思っていたより大ごとになりそうな話」として受け取られやすくなります。

前提が揃っていない状態で説明を増やしても、ズレは埋まりません。むしろ説明量が増えるほど、互いに違う前提のまま理解したつもりになり、後で大きなズレとして表面化します。提案が止まるとき、まず疑うべきは説明技術よりも、前提が揃っていたかどうかです。

2-2. 抽象度が合っていないと、現場には刺さっても上に上がらない

DX提案では、誰に向けて話すかによって、適切な抽象度が変わります。現場には具体性が必要です。業務がどう変わるのか、運用が現実的か、導入後に何が楽になるのかが重要になります。一方で、部門長や役員には、個別作業の説明をどれだけ詳しくしても不十分です。その変化が部門成果や経営課題にどうつながるのかが見える必要があります。

この抽象度の調整ができていないと、提案はどこかの層で止まります。現場には刺さっても、上位者にとっては細かすぎて判断しづらい。役員には経営インパクトを語っても、現場にとっては実行の現実感がなくて不安が残る。DX提案では、何を言うかだけでなく、どの抽象度で見せるかが前進を左右します。

2-3. 関心軸がずれると、良い提案でも判断材料にならない

相手が気にしていることと、こちらが強調していることがずれていると、提案は前に進みにくくなります。現場は負荷増や運用実態を気にします。情報システムは既存環境や実装リスクを見ます。企画部門は全社方針との整合を見ます。役員は投資優先順位や経営インパクトを見ます。こうした違いを無視して一つの論点だけを強く押しても、提案は「良い話だが、自分が判断するための材料ではない」と受け取られやすくなります。

以前、あるSI案件でこの失敗をしました。IT部門との関係は良好で稟議も通過していたのに、役員会・ステアリングコミッティで半年以上止まり、結果的に「次年度の検討課題」にされました。当初、私は競合製品を押す役員がいるのだと思い込んでいました。競合との比較資料を作り、役員同士の面談を設定するといった対策を講じましたが、状況は変わりませんでした。実際の原因は、競合製品との競合ではなく、「欧州の販売強化」や「工場ラインの組み替え」など、IT投資とは全く関係のない経営アジェンダとの競合でした。IR情報やアニュアルレポートにはそれらの記述がありましたが、当時の私はそれを読む習慣がなく、まったく気づいていませんでした。

この経験からわかるのは、提案が止まっているとき、止まっている原因を「提案の内容」の問題として見ていると、本当の原因に届かないことがあるということです。相手が何を経営判断の軸に置いているかを把握しないまま提案を重ねても、関心軸のズレは埋まりません。

2-4. 判断材料が不足すると、「理解」はされても「前進」しない

提案が理解されても前進しないとき、最後に不足していることが多いのは判断材料です。ここでいう判断材料とは、期待効果の数字だけではありません。既存資産との整合性、導入リスク、運用定着の前提、関係部門との調整論点、PoCを挟む必要性など、前に進むために確認すべき材料全体を指します。

大手邦銀のグローバル業務担当部門への提案で、この壁に直面したことがあります。関連部門を集めた勉強会を複数回開催し、現場の合意は取り付けていました。しかし、臨時のステアリングコミッティで承認されませんでした。後から分かったのは、勉強会に出ていた現場担当者が作成した社内向けレポートが、幹部にほとんど読まれていなかったということです。担当者は丁寧に仕事をしていましたが、長大なレポートは幹部の判断材料として機能していませんでした。私はそのレポートの作成に着手していると聞いた時点で、幹部向けのサマリー作成を提案するタイミングを失っていました。

DX提案では、話の筋が通っているだけでは不十分です。関係者が「この条件なら進められる」と思える状態まで判断材料が揃って、初めて前進しやすくなります。逆にここが足りていると、提案は「理解」はされても「判断できない」で止まります。

3. 解決策|DX提案を止まりにくくするための見直し順


3-1. まず、誰に何を判断してほしい提案なのかを確認する

提案が止まったとき、最初に見直すべきなのは、そもそもこの提案で「誰に何を判断してほしいのか」です。顧客担当者に検討を始めてもらいたいのか。部門長に関係部門との調整を進めてもらいたいのか。役員にPoCや予算化の判断をしてもらいたいのか。ここが曖昧だと、提案全体の向き先がぼやけます。

一つ確認に使える問いがあります。「この資料を読み終えた相手に、次に何と言ってほしいのか。」この答えが出ない、あるいは複数あるなら、提案の向き先が定まっていない可能性があります。何を判断してほしいのかが定まると、必要な論点も自然に絞られてきます。

3-2. 相手の立場に合った前提と抽象度に整える

次に見直すべきなのは、提案が相手の立場に合った前提と抽象度で整っているかです。現場向けの具体性が必要なのに、経営インパクトばかり語っていないか。役員向けの判断論点が必要なのに、現場オペレーションの説明に偏っていないか。ここを見直すだけで、同じ内容でも伝わり方は大きく変わります。

DX提案では、提案相手が一人ではありません。顧客担当者から現場、部門長、情報システム、役員まで、複数の立場をまたいで提案が渡っていきます。どの相手にどう渡るのかを意識して内容を整えると、提案は「分かる話」から「上に上げやすい話」に変わります。

3-3. 関心軸に沿って論点を並べ、判断材料が揃っているかを確認する

提案が止まるときは、論点の並び順を見直すことも有効です。内容そのものを大きく変えなくても、相手が気にしていることから先に置くだけで、受け取られ方は変わります。役員に対しては、まず投資判断の理由や経営方針との接続を示す。現場に対しては、運用負荷や実行の現実性から入る。論点の置き方が変わるだけで、判断される確率は大きく変わります。

そのうえで、前に進めるための判断材料が本当に揃っているかを確認してください。期待効果は示しているか。既存資産との整合は見えているか。懸念点への対応は整理されているか。関係部門との調整論点は押さえているか。こうした点が抜けていると、提案は理解されても止まりやすくなります。

DX提案では、相手が納得することと、相手が前に進めることは別です。前進のための材料が揃って初めて、提案は社内で動きやすくなります。

まとめ


DX提案が止まるとき、伝え方だけを見直しても、なかなか状況は変わりません。止まる原因の多くは、前提・抽象度・関心軸・判断材料のどこかにズレがあり、提案が相手の判断の土台に乗っていないことにあります。

止まったときは、まず「誰に何を判断してほしい提案なのか」を確認する。次に「相手の立場に合った前提と抽象度になっているか」を見直す。そのうえで「関心軸に沿って論点が並んでいるか」「前に進めるための判断材料が揃っているか」を確認する。この順で見ていくと、どこで噛み合わなくなっているかが見えやすくなります。

提案内容そのものが問題なのではなく、判断される設計になっていないまま進んでいることは、実際にはかなりあります。止まったときほど、説明量を増やす前に、判断の土台に乗る初期提案の設計図になっているかを一度見直してみてください。

【次に読むべきコラム】
👉️ DX提案が社内で止まる理由|担当者が説明を引き継げない構造

【DX提案 - 初動実務】
👉️ 初動実務①|なぜDX提案は話が通じているのに止まるのか
👉️ 初動実務②|DX提案は何から始めるべきか
👉️ 初動実務③|なぜ提案の骨格は思いついた順に作ると崩れるのか
👉️ 初動実務④|なぜDX提案は正しいのに刺さらないのか
👉️ 初動実務⑤|なぜDX提案の資料は読まれても止まるのか
👉️ 初動実務⑥|DX提案が伝わっても前に進まないとき、どこを直すか
👉️ 初動実務⑦|導入事例をどう使えば判断が前に進むのか
👉️ 初動実務⑧|DX提案が伝わっても前に進まないとき、どこを直すか

【参考】CaseScenario™なら


DX提案が「伝わっているのに前に進まない」背景には、業務課題として整理された提案が、経営課題として判断される形になっていないことがあります。CaseScenario™では、IRや中期経営計画をもとに、顧客が置かれた経営文脈を読み解き、業務課題を経営課題に翻訳した初期提案の設計図を整えます。

提案内容を増やすのではなく、誰が・どの局面で・何を判断するのかを起点に、案件化・検討開始・承認前進に必要な判断材料を初期段階で揃えることがCaseScenario™の役割です。前提・抽象度・関心軸のズレを、提案に入る前の設計段階で整えることで、提案が止まりにくい状態を作ります。

DX提案や新領域のソリューション提案で「話は通じているのに前に進まない」と感じている方は、提案設計の起点から見直すきっかけとしてご活用ください。

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