ALPHA BRANDING Corp.

CaseScenario

Column

「リードが柔らかい」と言われる理由|関心を検討開始に変える、マーケが渡すべき材料

上司から指摘を受けるビジネスパーソン。
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

SAS Institute、Teradata、Avanade、McAfee、Experian、Honeywellなどの外資系IT・アナリティクス企業で、30年以上にわたり法人営業とビジネス開発に従事。製薬、化学、食品・飲料、半導体などのプロセス産業のほか、金融、小売を中心に、導入事例の乏しい新領域における案件創出から受注までを主導。2023年にHoneywellのAccount Directorを退任し、現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域ソリューションの初期提案と、企業内でのDX施策の起案の設計を支援。

はじめに|営業から返ってくる3つの言葉

「パスしたリード、ちょっと柔らかすぎない?」
「先方は、検討を始めると言っているの?」
「課題は、まったく聞けていないの?」

ホワイトペーパーのダウンロード、ウェビナーへの参加、展示会での名刺交換。手間をかけて集めたリードを営業に渡したあと、こうした言葉が返ってきた経験はないでしょうか。

言われた側としては、言い返したくもなります。スコアの基準を満たしたリードを渡している。インサイドセールスも電話をしている。それでも営業は動かず、数週間後には「やはり温度感が低かった」という報告が届きます。

私は外資系企業で営業をしていた時期に、日本法人にマーケティングの機能がなかったため、営業と兼務で、海外で作られたホワイトペーパーや導入事例の日本語化、LinkedInやMetaの広告を担当していました。マーケティングの仕事と営業の仕事を、一人で受け持っていたことになります。そこで感じたのは、営業の言う「柔らかさ」は、リードの選び方を変えるだけでは解決しないということでした。

このコラムでは、営業の3つの言葉が何を聞いているのかを整理し、リードの選別を厳しくするのとは別の打ち手を考えます。

1. 課題と背景|選別を厳しくしても、営業の不満は消えない

1-1. 3つの言葉は、同じことを聞いている

「柔らかすぎる」「検討を始めると言っているのか」「課題は聞けていないのか」。言い方は違いますが、営業が聞いていることは一つです。「この会社で、検討は始まるのか」。

営業が受け取りたいのは、関心を持った人の連絡先ではありません。社内で検討が始まりそうな会社です。営業は、訪問の準備に時間を使います。検討が始まらない会社に通っても、その時間は戻りません。だから営業は、渡されたリードを「検討が始まるかどうか」という一点で見ています。

1-2. スコアとBANTは、担当者一人の状態を測っている

営業の不満に対して、マーケが取ってきた対応はおおむね2つです。一つはスコアリングで、資料のダウンロード、ウェビナーへの参加、閲覧したページの数などを点数にし、基準を超えたリードを渡します。もう一つはBANT(予算・決裁権・必要性・導入時期)の確認で、フォームの項目やインサイドセールスの電話で聞き取ります。

どちらも、担当者一人の状態を測るものです。スコアが表すのは、その人の関心の強さです。BANTの答えは、その人が知っている範囲の情報です。資料を読んでいるのが情報収集を任された担当者なら、予算も決裁の流れも、まだ本人が知らないことが少なくありません。

米国の調査会社Forresterは、個人の行動をもとにしたMQL(マーケティングが認定したリード)から、購買に関わる複数人のまとまり(購買グループ)を単位に考える方向への移行を、数年前から提唱しています。検討を始めるかどうかを決めるのは、資料を読んだ一人ではなく、社内の複数の人だからです。

1-3. 基準を上げると、リードが減るだけ

営業の不満が続くと、スコアの基準を上げることになります。リードの数は減り、マーケの目標には届きにくくなります。ところが、基準を超えて渡したリードについても、営業からは同じ言葉が返ってきます。

基準の高さの問題ではないからです。スコアやBANTが測っているのは担当者の関心で、営業が見ているのは社内の検討開始です。測っているものが違う以上、基準をどれだけ上げても、営業の問いには答えられません。

2. 課題の構造|「関心」と「検討開始」のあいだにある段差

2-1. 関心は個人のもの、検討開始は組織のもの

担当者が資料をダウンロードするのは、本人が関心を持ったか、上司から情報収集を頼まれたかのどちらかでしょう。いずれにしても、それは個人の行動です。

一方、検討開始は組織の判断です。上司や関連部門が「この件に予算を割くかどうか、検討の場に載せよう」と合意して、はじめて検討が始まります。中堅以上の企業では、担当者の裁量だけで始められる検討は多くありません。

関心と検討開始のあいだには、段差があります。担当者が上司に説明し、了解を得るという段差です。担当者が上司に相談したとき、上司が最初に聞くのは、製品の良し悪しではないでしょう。「それは、いま取り組むべき話なのか」です。

2-2. 担当者の手元に、上司に答える材料がない

その問いに答える材料が、担当者の手元にあるでしょうか。担当者が持っているのは、ダウンロードしたホワイトペーパーや、ウェビナーの資料です。その多くは、技術の動向や製品の機能を説明しています。「それは何か」には答えていても、「なぜ自社が、なぜいま取り組むのか」には答えていません。

答えられない担当者は、上司のところへ持っていけません。持っていけない話は、情報収集の段階にとどまります。営業から見ると、それが「柔らかい」リードです。

材料があっても、形が合わなければ同じことが起きます。国内の大手銀行に提案したとき、関係部門を集めた勉強会の反応は良好で、担当者は丁寧で分量のあるレポートを社内向けにまとめてくれました。しかし、そのレポートは幹部に読まれず、案件は失注しました。勉強会に出ていない人が、短い時間で判断できる形になっていなかったからです。

2-3. 「課題が聞けていない」のは、担当者もまだ言葉にしていないから

インサイドセールスが「どのような課題をお持ちですか」と聞いても、「情報収集の段階です」という答えが返ってくることがあります。担当者が課題を隠しているわけではありません。手にした情報が、自社のどの経営課題につながるのかを、本人もまだ言葉にしていないのです。

まだ言葉になっていないものは、聞き方を工夫しても出てきません。営業の「課題が聞けていない」は、観察としては正確です。ただ、打ち手は、ヒアリングを深くすることではありません。担当者が反応できる仮説を、先に示すことです。「御社の業界では、こういう経営課題が重くなっていると見ていますが、いかがでしょうか」と問われれば、担当者は「うちは少し違って」と答えられます。その答えが、営業に渡せる課題の手がかりになります。

2-4. IT・SIのマーケティングで起きやすい形

ITサービスやSIのマーケティングでは、この段差が特に大きくなりがちです。コンテンツのテーマは、生成AI、クラウド移行、レガシーシステムの刷新、セキュリティといった技術の話題が中心です。集まるのは、情報システム部門やDX推進の担当者です。

彼らは技術に関心を持っています。しかし、検討開始に同意が要る事業部門長、経営企画、財務の関心は、技術ではなく、自部門や会社の経営課題にあります。技術の話題で集めたリードは、上司の問いからいちばん遠いところにいる人たちです。人気のテーマほどリードは集まり、集まるほど、営業からは柔らかく見えます。

3. 解決策|リードと一緒に、社内で説明できる材料を渡す

ここでの目標は、リードの温度感をより正確に見極めることではありません。担当者が社内で検討を始められる確率を上げることです。コンテンツと顧客との接点を持っているマーケは、ここに直接手を打てます。

3-1. コンテンツの主語を、技術から業界の経営課題に変える

まず、コンテンツのテーマの立て方を変えます。技術を主語にするのではなく、対象業界の経営課題を主語にします。業界の主要企業の中期経営計画や有価証券報告書を何社分か読むと、業界に共通する経営課題が見えてきます。テーマはそこから立てます。

技術を主語にしたテーマ

経営課題を主語にしたテーマ

生成AIの業務活用セミナー

熟練者の引退で、品質判断のノウハウが失われつつある製造業の課題

レガシーシステム刷新のポイント

基幹システムの保守費が、新規事業への投資余力を奪っている構造

クラウド移行のベストプラクティス

海外拠点ごとに分かれたデータが、グローバルでの意思決定を遅らせている

経営課題を主語にすると、2つのことが変わります。一つは、集まる人です。その課題が社内で話題になっている会社の人が集まります。もう一つは、コンテンツそのものが、担当者が上司のところへ持っていける材料になることです。「うちの業界では、いまこれが問題になっている」と言える材料は、上司の「いま取り組むべき話なのか」という問いに、半分答えています。

3-2. 担当者が上司にそのまま渡せる「1枚」を用意する

次に、ダウンロードやウェビナーのあとのフォローで、担当者が上司にそのまま転送できる1枚を渡します。

1枚には、話の筋を一続きで書きます。市場環境、その会社の立ち位置、経営課題、業務課題、解決策、効果の6つです。業界の共通課題までをマーケが用意し、「その会社の立ち位置」はインサイドセールスが担当者との会話をもとに書き足す、という分担もできます。

確認の基準は一つです。ウェビナーに出ていない上司が、この1枚だけで「検討するかどうか」を判断できるか。2章の銀行のレポートのように、分量があっても、読む人が判断できる形になっていなければ、材料にはなりません。

材料は、書面だけではありません。ある製薬企業の品質保証部門では、同業他社との月次の情報交換会で、同じシステムを海外で先に運用していた会社から助言を受けたことが、本格的な検討の後押しになりました。「同業のあの会社も、こう判断した」という話は、担当者が社内で使いやすい材料です。ユーザー会や業界別の勉強会を運営しているなら、その場を材料づくりの場として設計し直すこともできます。

3-3. 引き渡しの基準を、「関心の強さ」から「社内に持ち込めたか」に変える

最後に、営業へ渡すときの確認項目を変えます。営業の3つの問いに、そのまま対応させます。

営業の問い

これまでの確認

これから確認すること

リードが柔らかすぎないか

スコア、閲覧ページ数、資料のダウンロード

担当者が、渡した材料を上司や関連部門に共有したか

検討を始めると言っているか

BANTの「導入時期」

検討の場に載せるとき、誰の了解が要るかを担当者が言えるか

課題は聞けていないか

フォームの課題の選択肢

担当者が、自社の経営課題とのつながりを一言で言えるか

いずれも、インサイドセールスの電話で確かめられます。「お送りした資料は、上司の方にも共有いただけましたか」「社内で検討の場に載せるとしたら、どなたの了解が要りますか」。答えがそのまま、営業が訪問の準備に使える情報になります。

この基準を営業と共有しておけば、やりとりの中身も変わります。「柔らかい」という感想ではなく、「資料は上司に共有されたが、関連部門の名前がまだ出ていない」という具体的な状態で話せるようになります。マーケの指標にも、リードの件数と並べて「材料が上司まで届いたリードの件数」を加えてみてはいかがでしょうか。

まとめ|「柔らかい」の正体は、関心と検討開始の段差

営業に「リードが柔らかい」と言われるのは、マーケのリードの選び方が甘いからではありません。マーケが渡しているのは担当者の関心で、営業が欲しいのは社内の検討開始です。そのあいだには、担当者が上司に説明するという段差があり、多くの場合、担当者の手元にはそのための材料がありません。

段差を埋める材料をつくれるのは、コンテンツと顧客との接点を持っているマーケです。選別の基準を上げる前に、渡す材料を変える。それが、営業の3つの言葉に答えるいちばんの近道です。

まずは、直近で反応の多かったホワイトペーパーを1本選び、担当者の上司になったつもりで読んでみてください。「それは、いま取り組むべき話なのか」という問いに、その資料は答えているでしょうか。

【次に読むべきコラム】

👉️ 担当者は乗り気なのに提案が止まる理由|検討開始を決める掛け算の構造
👉️ 顧客担当者が社内を説得できない本当の理由|担当者が一人で社内説明を引き継げる提案材料
👉️ インサイドとアウトサイドの断絶はなぜ起きるのか|営業組織の連携を阻む構造と見直し方

【参考】CaseScenario™なら


ここまでの打ち手のうち、経営課題を主語にしたテーマ設定と、担当者が上司に渡せる1枚は、マーケだけで用意するには手間のかかる作業です。業界ごとに主要企業のIRや中期経営計画を読み込み、自社のソリューションがどの経営課題に、どういう筋道でつながるのかを書面にする必要があるからです。

CaseScenario™は、この筋道を「初期提案の設計図」として整えるサービスです。20業界の経営課題テンプレートをベースに、ソリューションが解決する業務課題を業界共通の経営課題に接続し、市場環境から効果までの因果を書面に構造化します。マーケにとっては、ホワイトペーパーやウェビナーのテーマを経営課題から立てる起点になります。インサイドセールスにとっては、担当者に仮説を示して反応を聞くための材料になります。マーケ、インサイドセールス、営業が同じ設計図を持てば、リードを渡すときにも「この会社は、どの経営課題で検討が始まりそうか」という同じ言葉で話せます。

ただし、CaseScenario™はリードの数を増やすためのサービスではありません。整えるのは、担当者が社内で検討を始めるために必要な論点と判断材料までです。

👉 CaseScenario™の紹介ページはこちら

ライブラリ

「提案停滞」の文字と、足跡のシルエット図「承認停滞」の文字と、ビジネスパーソン3人のシルエット図「伝達不全」の文字と、4人の人物がネットワークで繋がっているシルエット図「PoC停滞」の文字と、進入禁止のテープのシルエット図「事例依存」の文字と、3つのバインダーのシルエット図「営業実務」の文字と、ジグソーパズルの3つのピースのシルエット図「営業実務」の文字と、ジグソーパズルの3つのピースのシルエット図