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海外ベンダーの提案が日本で止まる理由|伝わる提案に変える3つの視点

オフィスで資料について話し合うビジネスマンたち
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|翻訳は正しいのに、なぜか伝わらない


「翻訳は済んでいるのに、なぜか刺さらない」。海外ベンダーの日本法人で提案設計に関わっていると、こういう場面に何度も直面することがあります。海外で実績のある事例を紹介しても「自社とは違う話ですね」と返され、資料を整えて担当者に渡しても、社内で検討が進まないまま数か月が過ぎていく。製品の価値や競争力は十分なのに、なぜか初期の検討段階で外れてしまう。

こうした状況の原因は、提案の内容そのものより、価値の「伝わり方」にあることが少なくありません。翻訳された言葉が届いても、日本企業の意思決定の文脈に乗っていなければ、価値として受け取ってもらえないのです。

このコラムでは、海外ベンダーの提案が日本企業に届かない構造と、その状況をどう変えるかを整理します。「翻訳を超えて、価値を文脈ごと届ける」という視点で、提案設計を見直すきっかけになれば幸いです。

1. 課題と背景|海外で通用する価値が、日本市場ではそのまま伝わらない理由


1-1. 合議制が前提にある日本の意思決定

日本企業の意思決定は、多くの場合、複数の部門や関係者を巻き込んだ合議制で進みます。担当者が「良い」と判断しても、それだけでは動きません。上長への報告、関連部門の合意、役員会や稟議での承認と、段階的なプロセスを経ることが前提になっています。

このプロセスに沿っていない提案は、初期段階で「検討対象に入れにくい」という判断につながりやすくなります。担当者が社内で説明を引き継ぎ、それが上位の意思決定層に届くまでの過程で、提案の価値が再現されなければならないのです。海外ベンダーの提案が初期段階で外れやすい理由のひとつは、この構造が見落とされているという点にあります。

1-2. 翻訳資料が「文脈の不一致」を生む

海外本社が作成した資料を翻訳して使う場合、言語の置き換えにとどまり、日本企業が持つ業務の文脈や商習慣への適合まで踏み込めないことが多いです。文法的に正しい日本語でも、顧客からは「自分たちの状況とつながらない資料」に見えてしまいます。

たとえば、海外でキャッチーに機能するスローガンや頭字語を直訳しても、日本語では意味がぼやけ、かえって「配慮が足りない印象」を与えることがあります。「正しく訳されている」という事実が、「自社の文脈で書かれていない」という違和感を覆すことにはならないのです。

1-3. グローバル事例が「自分ごと」に届かない

海外ベンダーの強みのひとつは、グローバル規模での導入実績です。しかし、その事例が日本企業に刺さるかどうかは別の話です。知名度が低い海外企業の事例、業界が異なる事例は、「自分たちの課題には当てはまらない」と受け取られやすく、提案の入口で壁になります。

「事例がある=信頼できる」ではなく、「自分たちと近い状況での事例がある=参考になる」というのが日本企業の判断基準です。事例の量より、受け手が「自分ごと」として捉えられるかどうかが、初期の検討意欲を左右します。

2. 課題の構造|なぜ翻訳だけでは、日本企業の意思決定に届く提案にならないのか


2-1. 事例は「安心感」と「文脈の接続」を分けて考える必要がある

事例が刺さらない原因を突き詰めると、ほとんどの場合「業界や状況が違いすぎる」という一点に行き着きます。他業界の事例を転用しようとしても、用語の違い、業務の流れの違い、前提となる規制環境の違いが積み重なり、顧客が自社の課題として受け取りにくくなるのです。

外資系アナリティクスベンダーで製造業を担当していたある営業担当者は、金融や医薬向けに豊富な事例を持っていながら、製造業には全く刺さらないという状況に直面していました。企業名を伏せた事例を持っていっても「自分たちとは違う話」で終わってしまう。そこで試みたのは、他業界の事例をそのまま転用するのをやめ、製造業が同じ課題に直面した場合のシナリオとして再構成するという方法でした。医薬業界特有の規制や実装機能の記述を削り、業界特有の用語を製造業の言葉に置き換えると、読み手の反応が変わったといいます。

ここで整理しておきたいのは、事例には「安心感のための事例」と「課題を接続するための事例」という2つの機能があるという点です。安心感のためであれば、業界が違っても導入実績として機能します。課題を接続するためには、受け手が「自分たちの状況に当てはまる」と感じられる形に再構成しなければなりません。この2つを混同したまま事例を使うと、どちらの機能も果たせなくなります。

2-2. 担当者は「内容を理解する」だけでなく「社内で再現する」必要がある

翻訳資料が届かないもうひとつの原因は、提案の構造そのものにあります。多くの提案資料は、営業担当者が口頭で補足することを前提として成立しています。ところが実際には、提案を聞いた顧客担当者が社内に戻り、上長や関連部門、役員に対して自分一人で説明を引き継ぐことになります。

そのとき、提案の背景・因果関係・投資理由が再現できなければ、検討は止まります。これは担当者の説明力の問題ではなく、提案ロジックが「社内伝達できる構造」として整備されていないことが原因です。

現場担当者との勉強会を丁寧に重ね、その場での合意は取り付けたのに承認されなかった、という経験をお持ちの方は少なくないと思います。勉強会の場に参加していたのは現場担当者で、その担当者が自部門に戻ると直属の上司への報告になり、さらに上位の幹部へはレポートとして上がっていく。そのレポートが長くなりすぎた場合、幹部に読まれないまま意思決定が進んでしまいます。「現場が丁寧に仕事をした」ことが、むしろ伝達の妨げになった典型的な状況です。サマリーを社内説明に使いやすい形で準備することを、提案の早い段階で設計しておかなければ、担当者だけではどうにもなりません。

2-3. 体制の不在が問題を固定化する

翻訳と提案設計の不一致は、個人の努力だけでは補いにくい構造的な問題でもあります。翻訳はマーケティング部門や外部業者に委ねられることが多く、業界知識を持つ人材が介在して文脈に合わせた修正を行うプロセスが組まれていないことが多いです。

プリセールスや営業がその役割を担えれば状況は変わりますが、リソース不足から優先度が下がり、「翻訳で済ませるしかない」という状態が続くことになります。稟議に使いやすい形の資料、業界の言葉に沿った事例の再構成、担当者が社内説明を再現しやすい論点の整理。これらを属人的な工夫に頼らず継続して行える仕組みがなければ、一時的な改善にとどまってしまいます。

3. 解決策|翻訳を超えて、日本市場で価値が伝わる形に再構成する


3-1. 事例を「受け手の文脈」で再構成する

提案が届かない状況を打開する最初の一手は、事例の使い方を見直すことです。他業界の事例をそのまま使うのではなく、顧客が置かれている業界や業務の文脈に合わせて再構成する。具体的には、業界固有の用語に置き換えること、オーバースペックに見える機能記述を削ること、顧客が直面している課題と事例の課題を言語レベルで接続することです。

加えて、「安心感のための事例」と「課題を接続するための提案シナリオ」を切り分けて使うことが効果的です。安心感は他業界の実績でも機能します。一方、課題の接続は、顧客と同業・同規模・同課題の文脈でシナリオとして描くほうが、担当者が自社内で説明しやすくなります。

3-2. 担当者が社内で動けるように設計する

提案の場での説得力だけでなく、担当者が社内で説明を再現できるかどうかを設計段階から意識することが必要です。そのためには、提案に使う資料とは別に、担当者が上長や関連部門・役員に対して使いやすい形の資料を用意しておくことが効果的です。

具体的には、稟議の場で使いやすいように、背景・課題・導入理由・懸念への対応が簡潔にまとまったサマリーを設計することです。担当者が「自分の言葉で説明できる」状態にするためには、因果関係が追いやすく、説明の順序が整理されている必要があります。「口頭では伝わったのに、資料が一人歩きした途端に止まる」という状況を防ぐためには、資料を担当者が単独で使える構造として設計することが、提案段階での重要な一手になります。

3-3. 営業・プリセールスの知見を提案設計に組み込む

一時的な対応だけでなく、継続して日本市場に合った提案が出せるようにするには、翻訳後の資料を現場の知見で整える仕組みを持つことが必要です。翻訳部門やマーケティング部門だけに任せるのではなく、顧客接点を持つ営業やプリセールスが持つ業界知識・商談でのフィードバックを、資料設計に反映させるプロセスを明文化することです。

「翻訳で終わらせず、日本市場向けに再構成するステップを加える」という運用ルールがあるだけでも、属人的な工夫への依存は減ります。事例の再構成、稟議用サマリーの整備、担当者向けの説明順序の設計。これらを一人の担当者の技量に頼るのではなく、組織として再現できる形にしていくことが、中長期で安定した提案品質につながります。

まとめ|「伝わる形」への問い直しを、次の提案から始めてみてください


海外ベンダーの提案が日本市場でうまく機能しない背景には、言語を変えることと、価値を文脈ごと届けることのあいだにあるギャップがあります。事例が刺さらない、担当者が社内で動けない、資料が役員まで届かない。こうした積み重ねが、本来の価値が評価される前に「自社には合わない」という判断につながってしまいます。

ただ、これはひとつひとつ手が打てる領域でもあります。事例を文脈ごと組み直す、担当者が社内で使いやすい資料を準備しておく。大掛かりな改革ではありませんが、こうした積み重ねが、商談の手応えを変えることがあります。

次の提案を準備するとき、「この資料は担当者が一人で社内説明できる構造になっているか」を一度確認してみてください。そこから見えてくるものがあるかもしれません。

【次に読むべきコラム】
👉️ 導入事例がない段階で何を示すべきか|仮説シナリオで判断材料を補う方法

【参考】CaseScenario™なら


海外ベンダーが日本市場で直面する「事例が刺さらない」「担当者が社内で動けない」という課題の根底には、業務課題と経営課題のあいだにある言語の断絶があります。IRや中期経営計画などの公開情報から顧客企業の経営ゴールを読み取り、そこから逆算して業務課題を経営課題に接続することで、担当者が「なぜ今この投資を検討すべきか」を社内で再現しやすい初期提案の設計図を整えます。

翻訳された資料には載っていない「自社への接続」を、経営課題の言語で設計するのがCaseScenario™の役割です。担当者が社内説明を引き継ぐ際に、提案の起点・因果・投資理由が再現されるよう、初期段階で判断材料を整えることで、案件化・検討開始・承認前進を進めやすくします。

👉 CaseScenario™の紹介ページはこちら

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