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Column

外資系IT企業が日本で成果を出しにくい理由と、提案を再設計する方法

会議室で4人のビジネスパーソンがテーブルを囲み、議論をしている様子。
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|本社の期待と板挟みになっている方へ


「グローバルで実績があるのに、なぜ日本だけ進まないのか」と本社から問われ、現場からは「この資料では提案できない」と言われる。外資系IT企業の日本法人で代表や営業責任者を務めていると、こうした板挟みの場面は決して珍しくないのではないでしょうか。

海外では通用する事例も、日本の顧客には他人事として受け取られやすい。欧米では機能する訴求メッセージも、日本の稟議の場では力を持たない。単に翻訳の精度の問題ではなく、提案の構造そのものが日本市場に合っていないことが、案件を止めている根本にあります。

このコラムでは、外資系IT企業の日本法人が直面しやすい提案上の壁を構造として整理し、何をどの順で見直せば前に進みやすくなるかを考えていきます。

1. 課題と背景|グローバルの武器が、日本市場ではそのまま機能しない理由


1-1. 日本の顧客には「自分ごと」として届かない事例

グローバルで豊富な導入事例を持つ外資系IT企業でも、日本市場では「事例が響かない」という状況に頻繁にぶつかります。海外の大手企業による導入実績を示しても、日本の顧客にとっては「規模も制度も違う話」と受け取られ、検討の起点にはなりにくいのです。

日本企業の意思決定では、「自社に適用できるか」という実感が重視されます。同業種の国内企業が導入しているという情報であれば説得力を持ちますが、グローバルの事例はその条件を満たしにくい。事例の絶対数はあるのに、提案の初動で使えない、という矛盾が起きやすくなります。

この状況が続くと、営業は「国内事例が出てくるまで動けない」という待ちの姿勢になりがちです。リリース直後から案件化のタイミングを逃し、本社から見れば「なぜ動かないのか」という疑問が生まれる。事例の問題は、単体の提案課題ではなく、初動の停滞という形で組織全体に影響します。

1-2. 商習慣の違いが、提案の土台を変える

欧米では部門長やプロジェクト責任者が導入を決められる場合もありますが、日本では複数部門を巻き込んだ稟議と合議制が前提です。このことが、外資系IT企業にとって見落としやすい問題を生み出しています。

営業担当者がいくら担当者を説得しても、そこで完結しません。担当者はその後、法務・財務・経営企画・情報システム部門などに対して、自分の言葉で社内説明を引き継がなければならない。ところが本社から提供される資料は「機能説明」と「海外事例」が中心で、日本の社内説明を通すための材料としては不十分です。

外資系IT企業の場合、本社が用意する資料の前提そのものが「営業が直接説明する」欧米型の商習慣に合わせて作られています。日本では「顧客担当者が社内を説得する」という別の構造があることを前提に、提案を設計し直す必要があります。

1-3. 「翻訳」で対応できる問題と、できない問題がある

外資系IT企業が最初に手をつけやすいのが、本社資料の翻訳です。しかし、翻訳の精度を上げても解決しない問題が残ります。

直訳資料の多くは、修飾語が長く続いて意味が取りにくく、海外では一般的でも日本では馴染みがない専門用語が並んでいます。顧客からは「言いたいことはわかるが、社内で説明するには使いにくい」と受け取られ、担当者も自信を持って資料を使えません。パートナー経由の販売であれば、資料が即座に理解されないと提案がそこで止まります。

より本質的な問題は、訴求の軸そのものが日本市場の判断基準に合っていないことです。欧米では「ROI改善」「スピード導入」が強いメッセージになりますが、日本では「既存業務への影響が少ないこと」「複数部門が合意できること」が判断軸として機能します。単語や文体を変えるだけでは届かず、ストーリーの組み替えが必要です。

2. 課題の構造|なぜ日本では、提案が途中で止まりやすいのか


2-1. 担当者の先に、営業が見えていない承認者がいる

日本の組織における意思決定の特徴は、担当者・上長・役員会という複数の関門を、提案ロジックが「口頭補足なしで」通過しなければならない点にあります。

外資系IT企業の営業が担当者に丁寧に説明し、担当者が納得しても、その先で止まるケースが多いのはここに理由があります。担当者が単独で社内説明を行う場面では、製品の優位性よりも「なぜ今、この投資が自社に必要なのか」という経営課題との接続が問われます。これは担当者個人の説明力の問題ではなく、提案の構造として整えられていないことが原因です。

あるSI案件での経験ですが、IT部門との関係は良好で稟議も通過していたにもかかわらず、役員会で半年間止まったことがありました。最初は競合製品との比較で負けていると判断し、比較資料を準備しましたが、実際に止まっていた原因は競合ではなく、欧州展開や工場ライン組み替えといった、IT投資とは直接関係のない経営アジェンダとの優先順位競合でした。承認が進まない局面で、原因の診断を誤ると対策も的外れになります。

2-2. 本社の評価軸が、日本市場の現実と噛み合わない

本社はグローバルでの成功経験をもとに、日本法人にも同様の売上ペースを期待します。しかし日本市場では、需要が政策・補助金・年度の区切りと連動して動く性質があり、四半期ごとに均等に案件が積み上がるという前提が成り立ちません。

この構造的な違いを説明しても、本社には「言い訳に聞こえる」という問題があります。本社からは「なぜ売れないのか」という問いが来る一方、現場の営業は「この資料では提案できない」と言い、担当者レベルでの合意は取れても役員承認に至らない。日本法人の代表や営業責任者が板挟みになる構造は、個人の問題ではなく、こうした評価軸のズレから生まれています。

2-3. 担当者の合意が、承認の進行を保証しない

外資系IT企業の営業が陥りやすいのが、「担当者の合意=案件が進んでいる」という誤解です。実際には、担当者が乗り気でも、役員会・経営企画・関連部門での社内説明が整っていなければ、承認は前に進みません。

ある大手金融機関への提案では、関連部門を集めた勉強会を複数回開き、担当者レベルの合意をしっかり取り付けたものの、役員会では承認されませんでした。担当者が作成した詳細なレポートが幹部にほとんど読まれておらず、「丁寧な仕事をした」ことが逆に意思決定のノイズになったケースです。現場の合意と経営層の承認は、別の論点として設計する必要があります。

3. 解決策|翻訳を超えて、日本市場で動く提案に再設計する


3-1. 訴求の軸を「経営課題への接続」に置き換える

まず手をつけるべきは、訴求の起点を変えることです。「何ができるか」ではなく、「顧客が今直面している経営課題のどこに接続するか」を起点に提案を組み立てます。

具体的には、IR・中期経営計画などの公開情報から顧客企業の経営ゴールを読み取り、そこから業務課題を逆算する順序で論点を設計します。この順序で組み立てると、提案が「機能説明」ではなく「経営判断の材料」として機能しやすくなります。海外事例は安心感のための補助情報として使いつつ、提案の主軸は顧客固有の経営課題への接続に置くことで、競合との差別化も起きやすくなります。

日本市場では、担当者が「これは経営の言葉で説明できる」と感じた提案でないと、社内で引き継がれません。訴求の軸を変えることは、提案の「伝達性」を高める工程でもあります。

3-2. 稟議を通すための構造を、最初から設計する

訴求の軸が整ったら、次は社内説明を通すための構造を初期段階で設計します。担当者が単独で説明できる状態を作ることが目的です。

具体的には、「課題→解決策→成果」という因果の流れを、法務・財務・経営企画など非IT部門でも理解できる粒度で明示します。技術的な優位性ではなく、全社的に意義のある投資であることが伝わる構成です。営業担当者の口頭補足を前提としない構造にしておくことで、担当者が社内でどの部門に説明しても、論旨が変わらない状態を作ります。

ここで注意が必要なのは、担当者向けに詳細な情報を提供しすぎると、かえって幹部への伝達が難しくなる点です。経営層が判断できる粒度と、現場担当者が理解できる粒度は異なります。両方に対応する構造を意識して整えます。

3-3. 国内事例がない段階でも、顧客が自分ごとにできる材料を用意する

国内事例のない状態で提案を前に進めるには、「事例の代わりに何を示すか」を決める必要があります。海外事例をそのまま転用しても響かないなら、別の伝え方が必要です。

有効なのは、日本市場に共通する業界課題を軸にしたシナリオの再構成です。仮想企業を設定して「もし自社が導入したら、どのような経営課題に接続し、どの部門にどのような変化が起きるか」を具体的に描く方法です。あるケースでは、他業界の事例をそのまま転用しても製造業の顧客には刺さらなかったものが、IR情報をもとに製造業の経営課題に接続したシナリオとして再構築したところ、顧客が「自社の話として検討を始めやすくなった」という変化がありました。

事例とシナリオの違いは、「実績の証明」と「自社への適用イメージ」という目的の違いです。国内事例は前者にしか使えませんが、経営課題に接続したシナリオは後者として機能します。この二つを別のものとして使い分けることで、国内事例がそろう前から営業が動ける状態を作れます。

まとめ|まず「構造の問題」として捉え直すところから


グローバルで有効な事例も資料も、日本市場ではそのまま提案の武器にはなりにくい。これは日本の顧客が保守的だからでも、営業が足りないからでもなく、提案の構造が日本の意思決定の仕組みに合っていないことが原因です。

もし「案件はあるのに進まない」「担当者は乗り気なのに承認が止まる」「本社から説明がつかない」という状況に心当たりがあるとすれば、個々の提案の中身よりも先に、設計の土台を見直すことが近道になるかもしれません。

訴求の起点を経営課題に置くこと、稟議に耐える説明構造を初期段階で用意すること、国内事例に頼らず顧客が自分ごとにできる材料を整えること。この三つを順番に整えていくことで、現場が動きやすくなり、本社との対話も変わっていきます。一度に全部やろうとせず、まず提案の起点から見直してみてください。

【次に読むべきコラム】
👉️ 導入事例がない段階で何を示すべきか|仮説シナリオで判断材料を補う方法

【参考】CaseScenario™なら


ここまで述べた「訴求の軸の変更」「稟議に耐える構造設計」「国内事例に依存しないシナリオ」は、方向性としては明確でも、限られた人員で一から内製するには時間と労力がかかります。

CaseScenario™は、IR・中期経営計画などの公開情報をもとに業務課題を経営課題に翻訳し、案件化・検討開始・承認前進に必要な判断材料を初期段階で整えるサービスです。20業界の経営課題テンプレートを活用し、営業が提案に使いやすく、顧客担当者が社内説明に転用しやすい形で「初期提案の設計図」を提供します。

国内事例がそろっていない段階でも、経営課題に接続した提案シナリオを先に整えることで、現場が初動から動ける状態を作ります。本社との板挟みで悩む日本法人の代表・営業責任者の方にとって、まず試していただきやすい入口になっています。

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