ALPHA BRANDING Corp.

CaseScenario

Column

残予算をDX提案の起点に変える|PoCを経営承認に近づける方法

年度末の限られた時間と残余予算を象徴する、金貨と時計のイメージ
宮崎祥一の顔写真

執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|残予算が出てきたとき、どう動くかで変わること


「今年度の予算が少し残っていて」という話が顧客から出てきたとき、どう動くかを迷ったことはありませんか。

年度末が近づくと、こうした会話が増えてきます。DX案件は「関心はある、検証もした」という状態のまま、役員承認まで届かずに止まっていることが少なくありません。その止まっている案件に、残予算という形で再び動かすチャンスが訪れている局面です。

ここで「何か小口で使えるものを」と消化の発想で動いてしまうか、「来期の重点施策を先取りする投資」として置き直せるかで、案件の行方はかなり変わります。この分岐を意識できると、残予算の話が出てきたときの動き方が変わります。どこに手をつけると前に進みやすいか、順に整理していきます。

1. 課題と背景|年度末に止まっているDX案件の実情


1-1. 日本企業の予算サイクルとDX投資の位置づけ

日本企業の多くは3月決算です。10〜11月にかけて各部門が次年度の施策を提案し、12月に稟議・社内調整が進み、1月の役員会で方針が固まります。2月以降に予算の割り振りと契約が動き出すというのが標準的な流れです。

この流れの中で、DX関連投資は「単年度の業務効率化施策」として扱われがちです。経営の中長期テーマと結びついているはずなのに、実際の予算決裁は現場部門の稟議として処理されることが多く、経営層が判断する議題として上がりにくい構造があります。

1-2. 残予算が発生する背景

同時に、秋口以降は今年度の執行状況も細かく見直されます。計画していた案件が遅延したり、外部環境の変化で優先順位が下がったりすることで、手つかずの予算が見えてきます。

特にDX案件は、調達や利害調整に時間がかかるため、「検討は進んでいるが決裁には至らなかった」という形で年度末に残ることが多い。営業担当者が「関心はあるのに動きが止まってしまった」と感じているケースの多くは、この構造から来ています。

1-3. 残予算が「小口消化」に流れやすい理由

本来であれば、残予算は次の一手に振り向けられる資源です。ところが現場では「年度内に何か使っておこう」という発想で動くことが多く、小規模な発注で終わります。

PoCを実施しても「有効性は確認できたが、全社展開に踏み出すには判断材料が弱い」という形で止まるのが典型的なパターンです。この状態のまま年度を越えてしまうと、翌年度の検討が「また一から」になりやすく、積み上げたものがリセットされてしまいます。

2. 課題の構造|なぜDX案件は部門止まりになるのか


2-1. DX案件が部門の中で閉じる構造

DXの取り組みは、現場部門の課題意識から始まることがほとんどです。業務効率化やデータ活用など、現場に即したニーズが出発点になるため、検証や試行も部門内で完結しがちです。

経営層から見ると、それは「局所的な改善」に見えます。海外展開、生産改革、人的投資といった複数の経営テーマが役員会の議題として競合している中で、部門発のDX案件は優先順位の比較に入ってきません。担当者がいくら丁寧に社内説明をしても、役員が「自分が判断すべき課題」として認識しなければ、承認の俎上に乗りません。これは担当者の説明力の問題ではなく、業務課題と経営課題のあいだにある言語構造の断絶が原因です。

2-2. PoCの成果が経営の判断材料にならない

SI企業が直面するもうひとつの壁は、PoCで得た成果を経営的な意味づけに変換できていない点です。「処理時間を30%短縮」「作業精度が向上」といった指標は現場には響いても、経営層の判断材料にはなりにくい。

あるメーカー系の製造部門での案件では、需要予測の精度が約13%改善するという提案を進めていたところ、事業部の財務責任者から「それで何が変わるのか」とダメ出しされました。技術的な成果は出ていたにもかかわらず、経営指標への接続がなかったため判断が止まったのです。棚卸資産の圧縮、緊急配送費の削減、廃棄コストの減少として金額ベースで示し直したところ、初めて「検討に値する」という評価を得ました。

PoCの成果を経営の言葉に翻訳する工程が抜けていると、有効性が確認できても承認には届かないという構造が繰り返されます。

3. 解決策|残予算を「来期の先行投資」として置き直す


3-1. 経営サイクルに提案を乗せ直す

残予算の話が出てきた10〜11月は、多くの企業で次年度の計画立案が動いているタイミングです。この時期に提案を持ち込めると、「来期の重点施策を先取りする投資」として位置づけやすくなります。

まず、顧客の中期経営計画や直近のIR情報を確認し、経営層が次年度に重視しているテーマを把握しておきます。残予算の話が出てきたとき、「余った予算を使いましょう」ではなく「来期に向けた準備を今始める根拠」として話を組み立てられるかどうかが分岐点です。提案を経営サイクルに乗せ直すという発想が、ここでの起点になります。

3-2. 技術検証の成果を経営インパクトに翻訳する

PoCで得た成果を、経営層が判断できる形に変換することが次の打ち手です。「作業時間を20%短縮」という表現を、「人員を再配置することで年間○千万円のコスト削減が見込める」「ESG対応の監査リスクを低減できる」という経営の言葉に置き換えます。

経営層が承認するのは「効率化」そのものではなく、「財務や戦略にどう貢献するか」です。残予算を使って実施するPoCの設計段階から、「この検証が終わった時点で何の経営指標が動くか」を顧客担当者と合意しておくと、成果を経営言語に翻訳しやすくなります。この翻訳の工程を事前に設計しておくかどうかで、承認の届き方が変わります。

3-3. 部門の課題を経営課題のストーリーとして組み立てる

技術検証の成果を翻訳するだけでは不十分な場合があります。そもそも提案の起点が「部門の業務課題」のままであれば、いくら言葉を換えても経営課題として受け取られにくいためです。

たとえば「在庫管理の自動化」というテーマを、「サプライチェーン全体のリードタイム短縮」「新市場への供給体制強化」として経営レベルのストーリーに組み直します。このとき参照するのが、中期経営計画やIRに書かれた経営ゴールです。顧客企業がどの方向に進もうとしているかを起点に、部門の課題をその文脈に乗せ直すことで、経営層が「自分が判断すべきテーマ」として受け取りやすくなります。

残予算という局面は、この組み立てを試す好機でもあります。小規模な投資での検証であっても、経営ゴールへの接続が設計されていれば、次年度の本格展開につながる布石として提案を位置づけられます。

まとめ|残予算の話が出たとき、何を変えるか


止まっているDX案件に残予算の話が出てきたとき、それを消化の機会と見るか、来期に向けた布石を打つ機会と見るかで、動き方はかなり変わります。

PoCの成果を経営の言葉に翻訳できていなかった、あるいは提案の起点が部門課題のままだったとしたら、その点を見直すところから始めてみてください。中期経営計画やIRを手元に置いて、顧客企業が来期に向けて何を重視しているかを確認する。それだけで、残予算に対する提案の組み立て方が変わってきます。

年度末のこの局面を、次の案件の起点として使ってみてください。

【次に読むべきコラム】
👉️ PoCから本番に進まない理由|事前に合意すべき分岐条件と判断設計

【参考】CaseScenario™なら


残予算を「単なる年度末の消化」ではなく「次年度に向けた先行投資」として提案に組み立てるには、部門課題を経営課題の言葉に翻訳する工程が欠かせません。しかし、中期経営計画やIR情報を読み解き、顧客企業の経営ゴールを起点に提案構造を設計する作業は、営業現場にとって負担が大きいのが実情です。

CaseScenario™は、この工程を初期提案の段階で整備するサービスです。IRや中期経営計画から経営ゴールを読み取り、業務課題を経営課題に翻訳し、担当者が社内説明を再現しやすい構造として整理します。案件化・検討開始・承認前進に必要な判断材料を、提案の初期段階でそろえる初期提案の設計図として機能します。

残予算を使った検証の設計段階から、来期につながる経営言語の提案構造を整えておきたい場合は、CaseScenario™の活用をご検討ください。

👉 CaseScenario™の紹介ページはこちら

ライブラリ

BtoB提案シリーズ

導入事例の制作を依頼する前に知っておくべきことを解説するコラムのバナー。営業が使わない事例になる理由と、担当者止まりを防ぐ設計の考え方を紹介。導入事例の制作を依頼する前に知っておくべきことを解説するコラムのバナー。営業が使わない事例になる理由と、担当者止まりを防ぐ設計の考え方を紹介。
「提案停滞」の文字と、足跡のシルエット図「承認停滞」の文字と、ビジネスパーソン3人のシルエット図「伝達不全」の文字と、4人の人物がネットワークで繋がっているシルエット図「PoC停滞」の文字と、進入禁止のテープのシルエット図「事例依存」の文字と、3つのバインダーのシルエット図「営業実務」の文字と、ジグソーパズルの3つのピースのシルエット図