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提案で使える海外DX事例5選|用途と構造で選ぶ活用法

組み合わせの一部が抜けた白いパズル。海外DX事例を提案に当てはめる「構造の欠片」を示すイメージ
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執筆者:宮崎 祥一

Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Instituteなどで、アナリティクス領域の事業開発に従事。製造業を中心に、医薬や金融など多様な業界において、導入事例が乏しい新領域の提案も含め、案件創出から受注までを主導してきました。2023年にHoneywellのAccount Management Directorを退任。現在は株式会社アルファブランディングを通じて、DXや新領域のソリューションにおける初期提案の設計支援を行っています。

はじめに|事例を紹介しても「雑談で終わる」理由

海外DX事例を提案の場で出したとき、相手が「面白いですね」と言ったまま話が次に進まなかった、という経験はないでしょうか。事例そのものに問題があるわけではなく、相手の反応も悪くない。なのに、提案が前に進んだ手応えがない。

こうした「雑談で終わる事例」の使われ方は、現場では珍しくありません。知識として知っている事例と、提案の中で機能する事例のあいだには、はっきりした違いがあります。その違いは、事例の「質」ではなく「使い方の設計」にあります。

このコラムでは、日本企業のDX提案で転用しやすい海外事例5つを取り上げ、どの用途でどう使えば提案が前に進むのかを整理します。

1. なぜ事例は「雑談」で終わるのか

1-1. 「事例を知っている」と「提案で使える」は別の話

事例が提案の場で機能しないとき、よくある原因が2つあります。

ひとつは、事例の「結果」だけを伝えてしまうケースです。「このグローバル企業はAIで在庫を最適化して、コストを大幅に削減しました」という説明は情報としては正確ですが、聞いた側からすると「すごい話」で終わります。自社に当てはめる足がかりがなく、検討のきっかけになりません。

もうひとつは、事例が相手企業の文脈から切り離されているケースです。たとえば金融業界の事例を製造業の顧客に持ち込んでも、業界特有の前提や用語が異なるため、相手は「他社の話」として聞きます。内容がどれだけ優れていても、相手が「自分たちの課題」として受け取らなければ、提案は動きません。

この2つに共通しているのは、事例を「何のために使うのか」が設計されていないことです。

1-2. 事例には2つの用途がある

提案の場で機能する事例の使い方には、大きく2つの用途があります。

用途A:課題設定のために使う
提案の序盤で「なぜ今これを変える必要があるのか」を相手に腹落ちさせる使い方です。相手がまだ問題を問題として認識していない段階、あるいは「重要だとは思っているが優先順位が上がっていない」段階で機能します。事例の「変化前の状態」が相手の現状と重なっているほど効きます。

用途B:将来像を描くために使う
提案の中盤から終盤で「変革した後、自分たちはどんな状態になるのか」を相手が自分の言葉で描けるようにする使い方です。「完成形のイメージ」として機能するため、構造変革の規模が大きく、データとプロセスの再設計が明確な事例が向いています。経営層へのプレゼンで、方向性の合意を取るためにも使えます。

この2つは用途が異なるため、同じ事例でも使う場面によって効き方がまったく変わります。また、どちらの用途にも使える事例はほとんどありません。事例を持ち出す前に「今この事例を使うのは何のためか」を決めることが、最初の判断軸になります。

2. 提案で使える海外DX事例5選

2-1. Rolls-Royce|「故障したら直す」から「稼働時間を売る」への転換

【用途】課題設定用途

Rolls-Royceはかつて、航空エンジンを製造・販売し、故障やオーバーホールのたびに修理費用を航空会社から受け取るビジネスモデルで動いていました。収益を上げるには「修理回数が多いほどよい」という構造です。一方、顧客である航空会社にとっては、修理費用が読めないことが経営上のリスクになっていました。

同社はこの構造を根本から変えました。エンジンに搭載したセンサーデータをリアルタイムで収集・分析し、故障が起きる前にメンテナンスを実施する予知保全の体制を整えた上で、「エンジン1フライト時間あたりの稼働保証」という契約モデル(TotalCare)に転換したのです。修理が少ないほどRolls-Royceの利益が上がる構造になり、顧客も維持費が定額化されてコスト予測が立ちやすくなりました。現在、この予知保全の仕組みにより、年間およそ400件の予期せぬメンテナンスイベントが事前に回避されています。

なぜ課題設定に使えるのか: 「データを収集しているが活用しきれていない」「ハードウェアやサービスの販売で止まっていて、収益構造を変えられていない」という局面の顧客に対して機能します。事例の「変化前」——修理回数を増やすことで収益を上げる構造——が相手の現状と重なったとき、「放置するとどうなるか」が直感的に伝わります。製造業、機器メーカー、保守サービス業など、ハードウェアに付随するサービスを持つ業界への提案で特に転用しやすい事例です。

提案への接続例: 「御社のデータは現状、障害対応のためにのみ使われています。Rolls-Royceが行ったのは、そのデータを収益構造の設計に使うことへの転換でした。同じ転換が、御社の〇〇の領域で起きようとしているのではないでしょうか」

2-2. UPS|「経験値に頼る配送」が生み出していた見えないコスト

【用途】課題設定用途

UPSの配達ドライバーはかつて、自分の経験と勘でルートを決めていました。それぞれのドライバーが長年の現場感覚を持っており、一見すると問題のない業務プロセスに見えていました。しかしUPSがデータで検証したところ、この「属人化した最適化」の中に、莫大なコストが潜んでいることが明らかになりました。

同社が開発したAIによる最適ルート設計システム「ORION」は、1日の配達先・時間帯・過去の走行履歴・道路状況など数十万通りの組み合わせを計算し、ドライバーごとに最適ルートを提案します。導入後、1ドライバーあたりの1日の走行距離が平均8マイル削減されました。全米5万5千台規模の車両に展開した結果、年間の走行距離削減は1億マイル、燃料削減は1000万ガロン、コスト削減は年間3〜4億ドル規模に達しています。システム開発への投資額2億5000万ドルを、2015年時点で既に回収しています。

なぜ課題設定に使えるのか: 「属人化しているが、それが損失になっているとは気づいていない」という業務構造の可視化に使えます。製造業の現場管理、営業ルート管理、保守点検業務など、「熟練者の経験値で回っている」業務を持つ企業への提案で機能します。「当社の現場も同じかもしれない」と相手が自発的に課題を認識するきっかけになりやすい事例です。

提案への接続例: 「UPSが発見したのは、ドライバーたちの経験値が間違っていたわけではなく、個人の最適化と全体の最適化が別物だということでした。御社の〇〇の業務でも、同じ構造が起きていませんか」

2-3. Walmart|需要予測を「全社の意思決定基盤」に変えた例

【用途】将来像提示用途

Walmartは、POS(販売時点情報管理)データ・在庫データ・気象情報・地域イベント・SNSトレンドなど複数の外部・内部データを統合し、店舗単位での需要予測モデルを構築しました。これにより、「何をどの店舗にいつ届けるか」という意思決定が、担当者の経験則ではなくデータドリブンで行われるようになりました。AIを活用した需要予測の精度は長期で96%に達しており、在庫の欠品率の削減・廃棄ロスの圧縮・物流コストの最適化が連動して動く体制になっています。2022年のハリケーン・イアン上陸時には、主要な物流拠点が7日間稼働停止になりながらも、AIによる迂回ルートの自動算出により顧客への影響を最小化しています。

なぜ将来像提示に使えるのか: 「AIを入れて業務の一部を効率化する」という段階的なDXではなく、「データが全社の意思決定を動かす状態」という完成イメージを描かせるのに向いています。担当部門単位での業務改善提案ではなく、経営レベルでのDX投資を議論する場面——特に役員・経営企画が同席する提案——で使うと効果があります。

提案への接続例: 「Walmartが実現したのは、需要予測の精度向上ではなく、データが意思決定の権限者として機能する組織への転換です。御社が目指しているDXは、どこまでの転換を指していますか」

2-4. Netflix|「何を届けるか」ではなく「誰が離れるか」を収益の中心に置いた例

【用途】将来像提示用途

Netflixのデータ活用でよく語られるのは、レコメンドエンジンの精度です。しかし提案の場で本当に使えるのは、その先にある収益モデルの再設計です。同社はレコメンドの精度向上と並行して、「解約しそうなユーザーを事前に特定し、離れる前にパーソナライズした施策を打つ」という解約予測モデルを収益管理の核に据えました。

結果として、Netflix上で視聴されるコンテンツの75〜80%がアルゴリズムによるレコメンド経由で発見されており、このシステムによる顧客維持効果は年間10億ドル規模と推定されています。業界平均の解約率が月3〜5%であるのに対し、Netflixの解約率は2.5%未満に抑えられています。「データを使う」という取り組みが、業務改善の話ではなく収益モデルそのものの再設計につながった典型例です。

なぜ将来像提示に向くのか: 「データ活用=コスト削減・業務効率化」という発想にとどまっている顧客に対して、「データが収益構造の設計に直接介入する」という視点を提示できます。サブスクリプションモデルや継続利用型のビジネスを持つ企業、あるいはCRM・マーケティング投資の効果測定に課題を感じている経営層への提案で特に機能します。

提案への接続例: 「Netflixが測っているのは、コンテンツの良し悪しではなく『誰がいつ離れるか』です。御社の顧客データは今、何を測るために使われていますか」

2-5. エストニア|行政の「前提条件」から設計し直した例

【用途】将来像提示用途

エストニアは人口約133万人の小国ですが、国民IDを基軸に税務・医療・行政・金融・選挙など国家のほぼ全機能のデータ基盤を統合し、行政プロセスそのものを再設計しました。2001年に整備されたデータ交換基盤「X-Road」が根幹にあり、1つの電子IDで政府・自治体・医療機関・金融機関など2,700以上のサービスに接続できます。その結果、99%の行政手続きがオンラインで完結し、国民が年間800年以上分の労働時間を節約していると試算されています。

重要なのは、エストニアが「既存の紙の手続きをデジタルに置き換えた」のではなく、「手続きそのものを誰が何の目的で持っているのかを問い直し、前提から設計し直した」という点です。各省庁が別々に持っていたデータベースはそのまま残し、その間を安全につなぐ共通基盤を作るというアーキテクチャは、企業のシステム統合の文脈でも参照価値があります。

なぜ将来像提示に最適か: 「部分最適の積み上げ」と「前提からの設計変更」の違いを、国家規模の事例で示せます。大規模DXの方向性について経営層と議論する場面、あるいは「既存のシステムをつなぐ統合基盤」を提案する場面で、「どこまでを目指すか」の共通認識を作るために使えます。

提案への接続例: 「エストニアが選んだのは、省庁ごとのシステムを統一するのではなく、それぞれをそのまま残してつなぐという設計でした。御社で議論されている統合の方向性は、どちらに近いですか」

3. 事例を提案で使う3つの判断軸

3-1. 用途を決めてから事例を選ぶ

事例を使う前に決めるべきことは、技術の種類でも業界の近さでもなく、「今の提案のどの段階で使うのか」です。相手がまだ課題を問題として認識していない段階なら用途Aの事例を使い、方向性の合意を取りたい段階なら用途Bの事例を使います。この順序が逆になると、事例が場の空気から浮いた形になります。

たとえば、相手がDX投資の承認を迷っている段階に将来像の話を持ち込んでも、「確かに素晴らしい」で終わります。まず「今のままでいることのコスト」を課題設定用途の事例で共有してから、将来像の議論に移る流れが機能しやすいです。

3-2. 構造を抽象化して転用する

事例をそのまま紹介するのではなく、事例から「構造だけを取り出す」ことが転用のポイントです。

Rolls-Royceの事例であれば「製品の販売から、製品の稼働結果の販売へ」という構造です。UPSであれば「個人の最適化と全体の最適化は別物」という構造です。この構造を一段抽象化した上で、相手の業界・業務に当てはめます。業界が違っていても、構造が合致すれば事例は機能します。逆に、業界が近くても構造が合わなければ響きません。

転用の際に有効なのは「この事例でいうと、御社の〇〇がこれに相当します」という言い換えを一言加えることです。相手が「他社の話」として聞くか「自分たちの話」として聞くかは、この一言で変わることが多いです。

3-3. 事例は課題の「補強材料」であって「主役」ではない

事例が雑談で終わる最大の原因のひとつは、事例の紹介が目的化することです。「こんな事例があります」という紹介で会話が完結してしまい、その後の提案の論点につながりません。

事例は、相手がすでに感じている「何かが変わらないといけない」という感覚を、言語化・構造化する補助線として使うものです。事例を出した後に「御社では、これに似た状況として〜がありますが」という接続を設計してから事例を使うと、提案の中で事例が機能し始めます。事例そのものではなく、事例の後の一言を先に考える。これが「雑談で終わる事例」を「提案を前に進める事例」に変える実務上の違いです。

まとめ|事例の価値は「選んだ後」に決まる

事例を持ち出すタイミングと用途が合っていれば、海外DX事例は業界が異なっていても十分に機能します。事例の精度より、事例を使う場面の設計の方が、提案への影響は大きいです。

次に事例を使う機会があれば、「この事例は何のために使うのか」と「相手の現状のどこに構造を当てはめるか」の2点を先に決めてから持ち込んでみてください。提案の中での事例の重さが変わります。

【次に読むべきコラム】
👉️ 導入事例がない段階で何を示すべきか|仮説シナリオで判断材料を補う方法

【参考】CaseScenario™なら

本稿で取り上げた海外DX事例に共通するのは、「業務課題をそのまま語らず、経営が判断できる言語に翻訳している」という点です。収益構造の転換、全社の意思決定基盤への変革、前提からの設計変更——いずれも、現場の改善提案の言語ではなく、経営が投資判断できる課題の言語で語られています。

CaseScenario™は、この翻訳を初期提案の設計段階で整える仕組みです。IRや中期経営計画から顧客企業の経営ゴールを読み取り、業務課題を経営課題に接続し、顧客担当者が社内説明を再現しやすい形で判断材料を整備します。DX提案や新領域のソリューション提案で「案件化が進まない」「検討が始まらない」「承認が前に進まない」という局面で、初期提案の設計図として活用できます。

👉 CaseScenario™の紹介ページはこちら

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