伝統工芸品をリブランディング - 伝統工芸品を広めるためのデジタルマーケティング戦略

藍色の布とそれを織るための器具の画像の上に、「伝統工芸品をリブランディング - 伝統工芸品を広めるためのデジタルマーケティング戦略」と書かれている。

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


Cool Japan と言うけれど・・・。

クールジャパン戦略とは、日本の文化や技術、製品、サービスなどを海外に広く紹介し、世界的なブランド価値を高めるための政策を指します。

 

確かに日本の評価は少しずつ高まってきているとは思いますが、伝統工芸業界で見ると市場は縮小傾向にあり、決して楽観できる状態ではありません。

 

今回は伝統工芸品に着目して、体験型のサービスやデジタル技術を活用したサービスなどを検討し、全世界に発信するためのブランド戦略を考えてみたいと思います。



目次


1. 伝統工芸業界の現状


藍色の暖簾

1.1 伝統工芸業界の市場動向


1. 国内市場は縮小傾向:近年、日本国内の伝統工芸品市場は、残念ながら縮小する傾向にあります。これは主に、若年層の伝統工芸品への関心の低下や、消費者の価値観の多様化が原因とされています。

 

2. 海外市場は拡大傾向:一方で、海外市場においては、日本の伝統工芸品に対する需要が拡大しつつあります。日本文化に対する関心の高まりや、日本の伝統工芸品が持つ独自の美意識などが、高く評価されているためです。

 

3. オンライン販売が急速に拡大:インターネットの普及に伴い、オンライン販売が急速に増加しているのも特徴の一つです。オンラインショップやSNSを通じて、伝統工芸品が国内外の消費者の手元に、容易に届けられるようになったからです。また、オンライン販売限定のコラボレーション商品や、新しいデジタル技術を活用したサービスなどが登場しており、伝統工芸業界に新たなビジネスチャンスが生まれています。

  

これらの市場動向を踏まえると、伝統工芸業界は国内市場の縮小を補うために、海外市場への展開やオンライン販売の活用が重要であることがわかります。


1.2 伝統工芸業界の課題


1. 若年層の関心が低下:若年層は新しいファッションやインテリアなどのトレンドに敏感であり、逆に古い伝統工芸品に対する関心が低下しています。現代のライフスタイルに合わせたデザインや機能性が求められる中、伝統工芸品はデザインやその使用方法などに新しさが見られず、若年層から敬遠される傾向にあります。このため若年層ををターゲットにしたマーケティング施策が求められています。

 

2. 伝統工芸の技術が継承されない:伝統工芸の技術継承は、後継者不足や技能の高い職人の高齢化などの問題があり、危機的な状況にあります。技能の高い職人が減少することで、技術の継承が途絶える可能性があり、それに伴って伝統工芸品の品質が低下する恐れもあります。また、若年層に伝統工芸に関心を持ってもらい、後継者として育成する組織的なプログラムが不十分であることも課題となっています。

 

3. 海外市場へのアプローチが難しい:海外では、日本の伝統工芸品が持つ独自の文化や美意識が高く評価されているため、海外市場における需要は高まってきています。しかしながら言語や文化の違いから、プロモーション活動が上手くいかず、期待通りの結果が出せていません。マーケティング戦略や販売戦略などは、現地の文化に合わせたものにする必要があります。



2. 伝統工芸業界のリブランディング


夜の川面に映るライトアップされた和傘

2.1 リブランディングの基本戦略


伝統工芸業界をリブランディングする基本戦略としては、まず始めに市場調査を行ってターゲット顧客を特定し、その市場のニーズに応じた商品開発やサービス提供を計画します。

 

続いて、ブランディング戦略を策定し、伝統工芸品の魅力や背後にあるストーリーを伝えるコンテンツ制作や、適切なメディアを通じて露出することでブランドイメージを向上させることができます。

 

さらにマーケティング活動を実施し、ターゲット顧客に適したプロモーション戦略やPR活動を展開して、商品やサービスの認知度を高めます。

 

最後に、マーケティング活動の効果を測定し、改善点を見つけて修正を図ります。これらの活動を地道に行うことこそが、新たな市場や顧客層へのアプローチを成功させ、業界全体の発展に寄与することができます。

 

それでは一つずつ、詳しく見ていきましょう。


2.2 市場調査とターゲット市場の特定


1. 国内外の市場動向の分析:統計データや市場調査の報告書を入手し、市場規模、成長率、トレンドなどを分析します。また場合によっては、地域別や年齢層別のデータも入手する必要があります。

 

2. 顧客ニーズや購買行動の調査:アンケートやインタビューを実施することで、顧客の嗜好や価値観を把握します。購買データやSNS上の口コミなどのデータも取得し、それを分析することで、ターゲット顧客の購買行動を理解することに役立てます。

 

3. 競合に関する分析:日本の伝統工芸品は、アジアの他の国の伝統工芸品と競合することがあります。それらの商品ラインナップや価格設定、およびマーケティング施策を十分に調査し、独自のポジショニングを見つける必要があります。まだ競合が参入していない市場を見つけ出すことも重要です。

 

4. ターゲット顧客層の選定:以上の調査結果を基に、展開が最も有利になるようなターゲット顧客層を選定します。将来、拡大が見込める有望な市場を選定することが大切です。またビジネスプランを検討する上で、市場の規模やその成長率などの情報も必要となります。


2.3 商品やサービスの開発


1. 伝統工芸品の価値を活かす:伝統工芸品の技術やその素材を生かした商品やサービスを検討する必要があります。特に職人の技が際立つような商品展開を心がける必要があります。

 

2. ニーズに応えるデザイン:若年層や海外市場のニーズに応えることができるようなデザインにする必要があります。またデザインに加えて、職人の技を伝えるストーリーテリングを実施することも効果的です。

 

3. コラボレーションやデジタル技術の活用:単独でのプロモーションには限界がありますので、有名デザイナーとのコラボレーションなども検討するべきです。また場合によっては、3Dプリンタを始めとする新しいデジタル技術を活用し、商品の魅力を高めることも必要になってきます。


2.4 マーケティング施策の実施


1. ターゲットに適したメディア戦略:ターゲット顧客や顧客ニーズに合わせたメディアを選定し、プロモーション活動を実施する必要があります。メディア選定に失敗すると、コストばかり増加してしまい、結果が全く出ないなどということも十分あり得ますので注意が必要です。

  

2. コンテンツの作成:商品の機能を訴求するのではなく、伝統工芸品の魅力や、その背後にあるストーリーを伝えるコンテンツ制作する必要があります。これによって、ターゲット顧客が持つ、伝統工芸品のブランドイメージを確立します。

 

3. プロモーション活動:有名人やインフルエンサーとのタイアップ、メディアへのプレスリリース配信などを通じて、製品やサービスの認知度を高めましょう。ただしターゲット顧客のニーズに合致しているものでなくてはなりません。


2.5 効果測定と改善


1. KPIの設定:マーケティング施策に対する目標を明確化し、KPI(重要業績評価指標)を設定します。計測できないものはチューニングすることも、コントロールすることもできませんので、KPIの設定はとても重要です。

 

2. データの収集と分析:広告効果やウェブサイトのアクセスデータ、SNSの反応などを定期的に収集して効果測定を行います。特にデジタルメディアを通じたプロモーション活動は、容易にデータを取得することができますので、積極的にこれを活用しましょう。

 

3. 改善点の抽出と改善案の策定:分析結果をもとに、改善点を抽出し、改善策を具体的なアクションプランとして策定します。分析結果から改善点を抽出する際に、さまざまなバイアスがかかることが予想されますので注意が必要です。

 

4. 改善案の実施と効果検証:アクションプランに従って改善活動を実施するとともに、その効果を検証するためのデータを取得しましょう。データの収集と解析は、かなり手間がかかる作業ですが、一歩一歩、着実に進めていきましょう。



3. 伝統工芸業界における成功事例


刃物を研ぐ職人の手

3.1 5種類の成功事例


1. ワークショップや養成プログラムの提供

事例:「伝統工芸 職人養成プログラム」

刃物、組子、漆器、陶器といった伝統工芸品の職人を養成するためのプログラムが各地で開催されており、若い世代に伝統工芸の技術継承の機会を提供しています。このようなプログラムにより、後継者不足に歯止めをかけ、伝統工芸の技術の継承が期待されます。

 

2. 伝統工芸体験イベントの開催

事例:「京都・西陣織体験ツアー」

京都の西陣織では、観光客向けに伝統工芸体験イベントを開催しています。織機を使った織物体験や、伝統的な染色技法を学ぶワークショップなど、参加者が実際に伝統工芸に触れることができるイベントを実施し、好評を博しています。

 

3. 有名デザイナーとのコラボレーション

事例:「イッセイミヤケ × 職人技術」

ファッションブランド「イッセイミヤケ」は、日本の伝統工芸品とコラボレーションを積極的に行っています。特に、「132 5. ISSEY MIYAKE」のコレクションでは、日本の職人技術を活かした製品が多数展開されています。例えば、福井県鯖江市の高い技術を持つ眼鏡職人とコラボレーションし、特別な眼鏡を開発したりしています。

 

4. オンライン販売サイトの拡充

事例:「クリエイティブ・ジャパン」

「クリエイティブ・ジャパン」は、日本の伝統工芸品をオンラインで販売するプラットフォームです。国内外の消費者が手軽に伝統工芸品を購入できるようになることで、今後の市場拡大が期待できます。またオンラインショップを利用することで、消費者が直接職人とつながり、品質や背景についてのストーリーなども得られるため、伝統工芸品への理解が深まります。

 

5. デジタル技術を活用した新サービス

事例:「デジタル友禅」

デジタル友禅プロジェクトは、日本の伝統的な染め物技術である友禅染をデジタル技術で再現しようとする取り組みです。デジタル技術を用いることで、従来の手法では表現が難しかった色彩や、細かいデザインも実現することが可能になりました。今後、現代のファッションやインテリアなどへの適用が期待されます。

 

これらの具体的な成功事例から、伝統工芸業界が若年層や海外市場へのアプローチを強化し、新たな市場やニーズを喚起することで、業界の活性化を図ることができます。今後もこうした取り組みが拡大すれば、伝統工芸業界はさらなる発展が期待されます。



4. まとめ


曲げわっぱの弁当箱と箸

4.1 着実なマーケティング活動が実を結ぶ


日本の伝統工芸業界は、若年層の関心の低下や技術継承の難しさ、海外市場へのアプローチの困難さといった課題に直面しています。

 

これらの課題を解決するためには、有名デザイナーとのコラボレーション、伝統工芸体験イベントの開催、ワークショップや修行プログラムの提供、オンライン販売サイトの拡充、デジタル技術を活用した新サービスなどといった、着実なマーケティング活動の実施が求められています。

 

残念ながらブランディングには一撃必殺の飛び道具はありません。個別のマーケティング施策を一歩ずつ進めることこそが大切です。このような地道な活動によって新たな市場や顧客層を開拓し、伝統工芸業界全体の発展に寄与できると信じています。