宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
新規顧客と既存顧客のバランス
新規顧客の獲得、既存顧客へのフォロー営業、バランスを取りながら進めていきたいところですが、これが結構難しい・・・。
バランスを取るための最適解のようなものがあれば良いのですが、残念ながらありません。市場、商品、競合、タイミング、これらのパラメーターが少し変化するだけで、バランスは大きく変わってしまうからです。
従って最適解ではなく、常に特殊解とならざるを得ないのが実情です。仮に最適解らしきものを作ったとしても、ブレ幅が大きく、あまり役に立ちそうにありません。
これらを踏まえて、今回はこれらのバランスをいかにして取っていくべきなのか、またそのためにはどのような事を検討すべきなのか、一緒に探っていきたいと思います。
目次
1.1 新規顧客への販売は5倍の手間がかかる
1.2 全てを既存顧客に振り分けることはできない
2. バランスを取るために注意すべきポイント
2.1 自社だけの特殊解を探り出す
3. B2C企業とB2B企業の具体的な事例
3.1 B2C企業の具体的な事例
3.2 B2B企業の具体的な事例
4. まとめ
4.1 特殊解の探求には抽象化の能力が必要
1. 新規と既存のリソースバランス
1.1 新規顧客への販売は5倍の手間がかかる
企業の経営者にとって、新規顧客の開拓と既存顧客へのフォロー営業のバランスを取ることは、とても重要な課題です。リソースには限りがありますので、最適化を図らなければなりません。
リソースをどの程度配分するのかは、それから得られるリターンによって変わってきます。一般的には、新規顧客への販売は既存顧客の販売の「5倍の労力がかかる」とされています。まずはこれの真偽を検証していきましょう。
まず始めに「顧客の生涯価値(CLV)」について確認していきましょう。これはマーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏が提唱した概念で、顧客との長期的な信頼関係を重視することが、コストの削減や売上の向上につながるとしています。この概念に基づくと、既存顧客への販売活動は、新規顧客獲得よりも効果的であるとされています。
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また、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された研究では、顧客維持率を5%向上させることで、企業の利益が25%から95%も増加することが示されています。これは、既存顧客に対する販売活動が、新規顧客獲得に比べて効果的であることを示す一つの証左です。
1.2 全てを既存顧客に振り分けることはできない
これらの研究やデータからも、新規顧客への販売よりも既存顧客への販売の方が、費用対効果が高いことが解ります。企業は既存顧客との関係を大切にすることにより、その収益性を高めることができるのです。
しかし、全てのリソースを既存顧客に振り分けることはできません。なぜなら、既存顧客の一部は離反して、競合他社へ乗り換えるからです。
離反する既存顧客よりも、営業活動を行わなくとも自然に増加する新規顧客が多いのであれば、何も手を打つ必要はありません。しかし、離反する既存顧客よりも、自然に増加する新規顧客の方が少ないのが一般的です。従って、新規顧客の開拓にも、リソースを割かざるを得ないのです。
また、マーケットシェアを高めたいなどの特殊事情がある場合、あえて新規顧客の獲得に多くのリソースを割かなければならないケースも考えられます。
企業ごとに置かれている状況が異なりますので、市場、商品、競合、タイミング、これらのパラメーターを細かく確認しながら、自社だけの特殊解を出していくしなかないのです。
次の章では、新規顧客の開拓と既存顧客へのフォロー営業をバランスさせるために、注意すべきポイントを解説いたします。
2. バランスを取るために注意すべきポイント
2.1 自社だけの特殊解を探り出す
新規顧客の獲得と既存顧客の維持のバランスを取ることは、自社だけの特殊解を探ることであり、一般化した最適解を提供できるものではありません。市場、商品、競合、タイミング、これらのパラメーターが少し変化するだけで、バランスは大きく変わってくるからです。
従って、どの状況でも適用できる最適解を提示するのではなく、バランスを取る上で注意すべきポイントをいくつか紹介します。これらのポイントを自社のビジネスに当てはめて、特殊解を探ることに役立ててください。
/ リソース配分と効果測定 /
1. リソース配分の数量化:新規顧客の獲得と既存顧客の維持の目標を明確に設定し、予算、人員、時間などのリソースを適切に分配します。過去の成果やマーケットの動向を参考にして、なにを測定するべきなのかを決めましょう。
2. 効果測定と改善:新規顧客の獲得と既存顧客維持の施策の効果を定期的に測定し、改善策を検討します。各施策のROI(投資対効果)や重要業績評価指標(KPI)を計測し、効果の低い施策を早期に改善することで、リソースの無駄を防ぎます。
/ 顧客対応と販売促進 /
3. ターゲット顧客の明確化:新規顧客の獲得と既存顧客の維持に対する効果的なアプローチを行うために、ターゲット顧客を明確に定め、それぞれに対して最適な施策を実施します。
4. 新規顧客獲得に向けた施策: 新規顧客を獲得するためには、効果的なリードジェネレーションが必要です。これには、デジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、イベントや展示会への出展など、複数の顧客接点を使って、継続的に施策を実施する必要があります。
5. 既存顧客向けのリピート購入促進施策:既存顧客に対しては、リピート購入を促すプロモーションや特典、アフターサービスを提供しましょう。これにより、既存顧客の満足度が向上し、リピート購入が増えます。
6. リファラルプログラムの導入:既存顧客からの紹介を活用して新規顧客を獲得する、リファラルプログラムも非常に有効な施策です。これにより、既存顧客と新規顧客の両方にメリットを提供できます。
/ データ活用とパーソナライゼーション /
7. 顧客データを活用する:CRM(Customer Relationship Management)システムを導入し、顧客の属性や購買履歴を分析して、顧客セグメントごとに最適なマーケティング施策を展開します。
8. パーソナライゼーション:顧客データを活用して、新規顧客と既存顧客の両方に対してパーソナライズされたコンテンツやオファーを提供します。これにより、顧客満足度が向上し、新規顧客の獲得や既存顧客のリピート購入につながります。
9. 顧客のフィードバックを活用:新規顧客や既存顧客から得られるフィードバックを活用し、マーケティング活動や営業アプローチを改善していきましょう。定期的に顧客の声を収集し、それに合った施策を展開することで、顧客満足度を向上させます。
/ チームの連携とコミュニケーション /
10. チームの連携強化:セールスチームとマーケティングチームの連携を強化し、情報共有や戦略立案をスムーズに行いましょう。特にマーケティングチームが広告宣伝の役割しか担っていない場合には、組織の編成からやり直す必要があります。
11. コミュニケーションの最適化:定期的なミーティングやディスカッションを通じて、チーム内のコミュニケーションの機会を増やしましょう。効果的なコミュニケーションにより、互いの進捗や課題を共有し、問題解決や施策の改善が容易になります。
12. ツールやテクノロジーの活用:プロジェクト管理ツールやコラボレーションツールを活用することで、チーム内の情報共有やコミュニケーションの円滑化を図りましょう。これにより、作業の進捗状況や課題の把握が容易になり、チーム全体の効率が向上します。
さて、いくつかの注意すべき点を見てきましたが、全てを同じウエイトで注意する必要はありません。自社のビジネスの状況を鑑みながら対応策・・・特殊解を考えてみてください。
3. B2C企業とB2B企業の具体的な事例
3.1 B2C企業の具体的な事例
まず始めにB2Cにおける具体的な事例を見ていきましょう。一般顧客に向けてのマーケティング施策ですので、あなたもどこかで見たことがあるかもしれません。
1. Apple :Appleは新規顧客の獲得と既存顧客のリピート購入を促す、バランスのとれたマーケティング施策を展開しています。新規顧客向けには、プロダクトローンチイベントや広告キャンペーンを実施し、また一方、既存顧客向けには、アップルストアやiTunesでの購入に対して、一定のポイントを提供するApple Cardや、故障時に無料で修理サービスを受けることができるAppleCareなど、顧客ロイヤリティを高めるプログラムを展開しています。
2. IKEA:家具メーカーのIKEAは、オンラインとオフラインでのマーケティング活動をバランスよく行っています。新規顧客向けには、TVCMやウェブ広告を展開し、一方、既存顧客向けには、IKEA Familyという会員制プログラムを設けています。会員には限定セールや特別な割引を提供し、リピート購入を促しています。
3. Netflix:オンライン動画配信サービスのNetflixは、コンテンツの充実とパーソナライゼーションに力を入れています。新規顧客向けには、無料お試し期間やリファラるプログラムを提供し、一方、既存顧客向けには、視聴履歴に基づくおすすめコンテンツや、独自のオリジナルコンテンツを展開しています。
4. Sephora:Sephora(セフォラ)はフランスのLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下の企業で、化粧品や香水を扱う専門店です。新規顧客獲得と既存顧客のリピート購入を促すために、店舗体験とオンラインサービスの両方に力を入れています。新規顧客向けには、美容アドバイスやメイクアップサービスを提供し、一方、既存顧客向けには、会員制度「Beauty Insider」を導入し、ポイント制度や誕生日プレゼント、限定イベントへの招待などの特典を提供しています。
これらの事例は、新規顧客獲得と既存顧客へのリピート購入促進をバランスよく行うことで、企業の成長を支えるマーケティング戦略がいかに重要であるかを示しています。経営者は、これらの事例を参考に、自社のニーズや市場環境に合った戦略を検討することが求められます。
3.2 B2B企業の具体的な事例
B2Bビジネスでも、新規顧客獲得と既存顧客のリピートビジネスを促すために、効果的なマーケティング施策を展開している企業があります。以下に、いくつかの事例をご紹介します。
1. Salesforce:CRMソフトウェアを提供するSalesforceは、新規顧客獲得と既存顧客のリピートビジネスを促すために、コンテンツマーケティングやイベントを活用しています。新規顧客向けには、ウェビナーやブログ記事、ホワイトペーパーなどの教育コンテンツを提供し、一方、既存顧客向けには、年次開催されるDreamforceイベントや、専門家によるサポートやコンサルティングサービスを提供しています。
2. Adobe:ソフトウェア企業のAdobeは、教育コンテンツやパートナーシップ戦略を活用しています。新規顧客向けには、ウェビナーやチュートリアル、ブログ記事などの教育コンテンツを提供し、一方、既存顧客向けには、Adobeパートナープログラムを通じて、専門的なサポートや独自のリソースを提供しています。
3. Slack:コミュニケーションツールを提供するSlackは、無料プランと有料プランのバランスを上手く活用しています。新規顧客向けには、機能制限付きの無料プランを提供し、ユーザーに製品を試してもらう機会を作ります。一方、既存顧客向けには、追加機能を含む有料プランを展開し、継続的なビジネスを促進しています。
4. HubSpot:マーケティングオートメーションプラットフォームを提供するHubSpotは、インバウンドマーケティング戦略に力を入れています。新規顧客向けには、SEO対策を行ったコンテンツマーケティングや、ソーシャルメディアでの広告キャンペーンを展開し、また既存顧客向けには、独自のコンテンツやイベントを通じて、顧客とのエンゲージメントを深めています。
新規顧客獲得と既存顧客のリピート購入を促進する、バランスの取れたマーケティング施策が、企業の成長や顧客満足度向上に大きく寄与します。自社のビジネスや市場環境に合わせたマーケティング施策を、検討・実行していくことが大切です。
4. まとめ
4.1 特殊解の探求には抽象化の能力が必要
B2B企業もB2C企業と同様に、新規顧客の獲得と既存顧客のリピート購入をバランスよく促進することが大切です。
ただしそのバランスは、企業が置かれている状況によって変わってきますので、自社オリジナルの特別解を探り出す必要があります。
この特殊解の探求は、ビジネスの成長や顧客満足度向上に非常に重要であることを念頭に置いて、マーケティング施策の改善を継続して実施することが大切です。
特殊解を考えるには、具体的なデータを抽象化する能力が求められます。以前「フレームワークを使いこなせない理由 👉 Link」というブログ記事を書きましたので、是非参考にしてみてください (^^)/