宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
伝統工芸のデジタル化
新型コロナウイルスの影響で外出が難しくなり、いわゆる「おうち時間」が増加したことで、オンラインでの販売が急増しました。感染が一段落し、市場の成長率はやや鈍化しましたが、依然として好調を維持しています。
しかし、オンライン販売でどの業界も業績を伸ばしたのかというと、そういう訳ではありません。今回は、イマイチ業績を伸ばせなかった、伝統工芸業界のデジタル化について、一緒に考えていきましょう。
目次
1-1. 新型コロナウイルスによるリモートワークの増加
1-2. e-コマース市場の拡大と伝統工芸品の現状
2. 課題の構造
2-1. SNS利用者数の増加と投稿がスルーされる理由
2-2. 主要SNSの特徴と問題点
3. 解決策
3-1. ペルソナの作成とターゲティングの重要性
3-2. 適切なコンテンツの用意と情報発信方法
4. まとめ
4-1. 効果的なプロモーションのための計画の重要性
1. 課題と背景
1.1 新型コロナウイルスによるリモートワークの増加
新型コロナウイルスの影響により、在宅のリモートワークが急増し、多くの人々が自宅で過ごす時間が大幅に増えました。この状況に伴い、e-コマースの市場が急速に拡大し、多くの企業がネット販売を通じて収益を上げることに成功しています。
例えば、アパレル業界や家電製品のメーカーなど、多くの企業がオンライン販売に注力することで、売り上げを伸ばしました。また、食品や飲料などの分野でも、オンラインでの注文と宅配サービスが普及し、消費者の生活スタイルに大きな変化をもたらしました。
しかし、このようなオンライン市場の拡大が、伝統工芸品の販売にどのような影響を与えているのでしょうか?多くの伝統工芸品に携わる職人や販売業者は、ネット販売の恩恵を受けていないと感じているかもしれません。
伝統工芸品は、その特性上、手作りの温かみや質感を直接手に取って感じることが重要とされており、オンラインでの販売ではその魅力を十分に伝えることが難しいとされています。さらに、消費者が伝統工芸品を購入する際には、その背景にあるストーリーや職人の技術、文化的な価値を理解することが求められるため、これらの情報を効果的に伝えるための工夫が必要です。
1.2 e-コマース市場の拡大と伝統工芸品の現状
伝統工芸に携わる企業も、e-コマース市場の拡大に対応するために様々な努力を重ねています。まず、自社のホームページをリニューアルし、オンラインで商品を販売できるシステムを導入する企業が増えています。また、SNSやブログを活用して商品の特徴や魅力を伝えることにも力を入れています。
しかし、これらの努力にもかかわらず、商品が売れることは稀で、多くの企業が期待する成果を上げられていないのが現状です。
その理由の一つとして、伝統工芸品の特性上、オンラインでその魅力を完全に伝えることが難しい点が挙げられます。消費者は、実際に商品を手に取って質感や細部の作りを確かめたいと考えるため、オンラインでの購入に対する抵抗感があります。また、伝統工芸品の多くは高価格帯の商品であるため、消費者が購入を躊躇することも少なくありません。
このような状況の中で、どこに問題があるのかを次節で詳しく見ていきましょう。問題点を明確にすることで、伝統工芸品のオンライン販売を成功させるための具体的な戦略を立てることが可能となります。
2. 課題の構造
2.1 SNS利用者数の増加と投稿がスルーされる理由
2022年の株式会社ICT総研の調査報告「2022年度SNS利用動向に関する調査」によると、SNSの利用者数は8,270万人に達しており、2024年末に8,388万人へ拡大する見込みです。スマートフォンの格安プランなどの影響により、若年層だけではなく高齢者層の利用を増加傾向にあります。
SNSに対してどの程度の投稿があるのか、簡単に推計してみましょう。
8,270万人のうちの5%のユーザーが1日1回投稿すると、およそ413万件の投稿があることになります。新宿駅の1日の利用者数が約350万人であることを考えると、その規模の大きさが分かります。あなたの投稿が誰の目にも止まらないのはこのためです。
2.2 主要SNSの特徴と問題点
SNSマーケティングを行う上で、SNSの特徴は重要な要素です。個別に主要なSNSの特徴を見ていきましょう。
X (Twitter):オープンネットワーク型と呼ばれ、コンテンツが広範囲に公開され、多くの人がアクセスすることができます。しかし注目を集める投稿は有名人かインフルエンサーのものが多く、一般のユーザーの投稿はほぼスルーされてしまいます。あなたが伝統工芸品を投稿したところで、ほとんど反応は期待できないでしょう。
Instagram:このSNSはビジュアル共有型と呼ばれ、写真や動画の共有が中心となっています。ビジュアルコンテンツが主体であるため、視覚的な魅力を訴求するコンテンツに注目が集まる傾向にあります。いわゆる「映える」ものが好まれることになりますが、伝統工芸品で映えるコンテンツを作成するには、高い撮影技術とスタジオセットなどが求められることになり、素人がスマホで撮影したコンテンツの多くはスルーされてしまいます。
Facebook:これはクローズドネットワーク型と呼ばれ、実際に面識のある人同士のつながりが主体となっています。プライベートな投稿も少なくないため、主に限られた人たちの間での情報共有に使用されます。当然、売り込み姿勢が前面に出てしまっている企業アカウントを積極的にフォローする人は少ないでしょう。
Web、ブログ、SNSなどで情報発信を行っているにもかかわらず、手ごたえを感じることができないのは当然のことです。あなたの投稿は『全てスルー』されているのですから。
3. 解決策
3.1 ペルソナの作成とターゲティングの重要性
効果的な情報発信のためには、ターゲット層を明確にし、その層に対する適切なアプローチを考えることが重要です。すべての人に情報を届ける必要はありません。あなたの商品を購入する可能性のある人たちだけにプロモーションを行うべきです。
そのためには、ターゲットのペルソナを作成することをお勧めします。ペルソナとは、ターゲットの具体的な属性を示す架空の人物像です。氏名、年齢、家族構成、学歴、仕事、趣味、住んでいる地域などを具体的に決め、その人物に対するプロモーションを検討します。これによりプロモーションの効率が格段に向上します。ペルソナを作り、ターゲットを絞り込むと全体のパイが小さくなり、集客に支障をきたすと思うかもしれませんが、心配には及びません。外れれば外れるほど、あなたの商品を購入する確率が下がりますので、捨ててしまっても問題はありません。
3.2 適切なコンテンツの用意と情報発信方法
ペルソナが決まれば、情報発信をするための適切なコンテンツを用意する必要があります。ペルソナがあなたの商品を購入する理由を深く検討すれば、必要とされるコンテンツはおのずと決まってきます。
最後に、そのコンテンツをどのようにしてペルソナに届けるのかを検討します。ブログに書いたりSNSに投稿したりしてもスルーされてしまうので、新たに方法を考える必要があります。ここでお勧めの方法を2つご紹介します。
ターゲッティング広告(Targeted Advertising):まずターゲティング広告です。Meta社が提供しているInstagramやFacebookなどでは、ターゲットの属性を絞り込んで広告を出すことができます。あなたの商品に興味や関心がある人だけに広告を届けることができるのです。またAI機能が搭載されていますので、自動でターゲットの微調整を行ってくれます。
インフルエンサーマーケティング(Influencer Marketing):次にインフルエンサーマーケティングです。伝統工芸やそれに関連するインフルエンサーと連携し、認知度を高める方法です。インフルエンサーをフォローしている人の多くは、あなたのターゲットとかなり重なる部分があるため、効果的に認知度を高めることができます。ただし、インフルエンサーと提携している旨を合わせて情報発信しなければ、ステルスマーケティングと誤解され、信用を失うことになりかねませんので注意が必要です。
なるべく広告費を使わないで集客したいところですが、それはなかなか難しいところです。ブログやSNSの更新を続けることによって検索サイトで上位を目指すには、かなりの期間を要します。多くの企業は途中であきらめてしまい、効果を得ることができません。また仮に一度上位を獲得したとしても、検索サイトの順位決定アルゴリズムの修正により順位が下がってしまえば、一気に業績も下がってしまいます。そのリスクヘッジのためにも、必要な部分にはしっかりと広告費をかけて集客を行いましょう。
4. まとめ
4.1 効果的なプロモーションのための計画の重要性
今回は伝統工芸品のオンライン販売について説明しました。ターゲットを十分に調査し、ペルソナを明確にすることで、効果的なプロモーションが可能になります。思いつきで手を動かすのではなく、しっかりとしたプランを立ててからプロモーション活動を行いましょう。
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あと同じ業種の成功事例よりも、ほかの業種の成功事例の方が役に立ちます。自分と同じ業種だと「おなじみの成功事例」しか見つかりませんからね。「学ぶ」の語源は「まねる」だそうですよ。