宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
企業のSNSは本当に役に立っているのか
SNSを販促に利用される企業が増える一方で、投稿しても手応えを感じられないので、積極的な活用をやめてしまったという企業も少なくありません。
確かに一時期と比べて、プロモーションの効果が大きく落ち込んでいることは間違いなさそうです。今回はこのSNSを使った販売促進の方法を考えてみたいと思います。
(私の場合、SNSは実名の写真入りなので、迂闊なことは書けません・・・たまに書くけど。)
目次
1.1 あなたの競合は400万人
2. スルーされる投稿とされない投稿
2.1 友人の投稿はスルーされない
2.2 企業の投稿は秒殺でスルーされる
3. 役に立つ企業アカウントを目指す
3.1 購入する理由を深く掘り下げろ!
3.2 あなたの信念を伝えておくべき理由
4. まとめ
4.1 オーガニックリーチを増やすことが大切
1. SNSには膨大な量の投稿がされている
1.1 あなたの競合は400万人
何をするにもインターネットで検索。新しい服を買うときも、宴会の会場を決めるときも、好きな人ができたときですら、まずインターネットを検索します。いまの私たちにとって、検索は標準的な意思決定プロセスとなりつつあります。
では、私たちが常時利用しているこのインターネットには、どれくらいのデータが存在しているのでしょうか。米国の調査会社IDCは、2020年にインターネットのデータ量が59ゼタバイトに達すると報じています。宇宙に存在する恒星の数が20ゼタ個といわれていますので、まさしく星の数ほど大量に存在しているのです。あまりにも大きな数なので、SNSの投稿数だけに絞り込んでみましょう。
ICTの調査によると、SNSの利用者は2020年末に7,975万人に達すると報じられています。また梨状状況について「自ら情報発信や発言を積極的に行っている」と回答した割合は、Facebook(5.3%)、Twitter(7.7%)、Instagram(3.9%)です。
仮にSNSを積極的に利用しているユーザーの「5%」が、「1日に1回だけ投稿」したとしても、その数は約400万件です。東京駅の1日の乗降車数が約46万人ですので、その数の多さに驚かされます。
仮にヘビーユーザーが1日1回だけ投稿したとしても、1日に400万件もの投稿がある訳ですから、あなたの投稿は誰の目にも留まりません。
2. スルーされる投稿とされない投稿
2.1 友人の投稿はスルーされない
不特定多数に対する情報は、内容を確認することなく秒殺でスルーしてしまいますが、友人の投稿は簡単にスルーしません。友人の行動には興味があるからです。
またSNSは簡単に情報を共有できるため、ときに爆発的な情報の拡散が起こります。少し前の調査ではありますが、Twitterの利用状況を大規模に調査したデータがありますので、これをもとに概算を算出していきましょう。
2016年における日本のTwitter利用者は約3500万人。フォロワー数は、平均値648人、中央値426人です。Twitterの場合、一部のアカウントが非常に多くのフォロワーを持っていますので、シミュレーションには中央値を使用します。2010年のSysomosの調査では、平均リツイート率は6%とされていますが、これも一部の影響力の強いアカウントを考慮して、チョット控えめに3%としましょう。投稿が拡散する範囲は2階層「投稿者⇒フォロワー(1階層)⇒フォロワー(2階層)」とします。
あなたがSNSで426人に対してツイート、そのうち3%である12.8人が各々426人にリツイートします。すると「12.8人×426人=5,444人」が投稿を受信します。同様にその3%の163.3人がリツイートすると、69,578人が投稿を受信します。投稿の最終到達者数は「12.8人+5,444人+69,578人=75,035人」です。SNSを利用すれば75,035人に情報を届けることが可能です。
東京ドームでコンサートを行う場合の収容人数が55,000人です。コンサートに詰めかけた観客全員に一瞬であなたの投稿を届けることができるのです。これは凄いインパクトです。これを利用しない手はありません。
2.2 企業の投稿は秒殺でスルーされる
ただ、自分の投稿が爆発的に拡散した経験がある方は、少数派だと思います。特に企業アカウントの場合はそうだと思います。
2016年のFacenaviの調査によると、企業アカウントのエンゲージメント(リツイート+お気に入り)率は0.334%です。個人アカウントと比較して、かなり低い数値を示しています。
リツイートとお気に入りの比率は報告されていませんので、そのままリツート率として先ほどと同じシミュレーションを行うと、企業の投稿の最終到達者数は1,470人だけです。
簡単に言うと、友人の投稿は読まれてリツイートされますが、企業の投稿は秒殺でスルーされると言うことです。
企業アカウントの場合、普通に投稿していては何の効果もありません。つまらない広告ばかり投稿するウザい企業アカウントと認識されて、マイナスのイメージを持たれてしまいます。
フォロワーの友人とまではいかなくとも、せめて、たまに役に立つ投稿をする企業アカウントぐらいにならないと、存在意義がありません。
フォロワーが興味を持っていて、自社のビジネスにつながる内容を投稿することが大切なのです。
3. 役に立つ企業アカウントを目指せ
3.1 購入する理由を深く掘り下げろ!
「フォロワーが興味を持っている」なおかつ「ビジネスにつながる」、この2つの条件を満たす内容を投稿しなければなりません。まず、あなたのお客様が、あなたから商品やサービスを購入する理由を深く掘り下げてください。
人は興味を持っていないものに「お金を払う」ことはありません。必ず何らかの興味を持っています。それでは具体的に考えていきましょう。
あなたはベーカリーを経営しています。もちろん仮の話です。あるお客様が、写真にあるようなカンパーニュを購入されました。購入した理由は何だと思いますか。
見ての通り、お腹が空いたので帰りにチョットつまむような種類のパンではありません。自宅に戻ってスライスして食べるパンです。お客様が購入した理由は次のようなものです。
- 夕食がビーフシチューなのでパンを合わせたい
- チーズをもらったのでパンに乗せて食べたい
- チョット高いワインを買ったので一緒に楽しみたい
- テレビのグルメ番組を見て食べたくなった
これらを眺めると、本当は「チョット贅沢な食事」に興味があることに気がつきます。カンパーニュの情報に、「チョット贅沢な食事」を実現できるような情報を付加して投稿すれば、スルーされる確率が大きく下がります。
ワインやチーズなどの食材情報と合わせて記事を制作し投稿する、カンパーニュを使ったオシャレな料理を投稿する、美しい盛り付け方を紹介するなど、投稿内容の幅が広がります。これらの投稿は、「フォロワーが興味を持っている」と「ビジネスにつながる」の2つの条件を満足します。
お客様の購入理由を深く掘り下げることこそが、役に立つ記事を投稿をする企業アカウントと思ってもらえる近道なのです。
3.2 あなたの信念を伝えておくべき理由
「フォロワーが興味を持っている」かつ「ビジネスにつながる」の2つの条件を満たす投稿が必要なのですが、それに加えてあなたの会社の「信念」を合わせて伝えておくべきです。
下記は架空のベーカリーのコマーシャルメッセージです。メッセージAは一般的なベーカリーのもので、商品の特性を列挙しています。一方メッセージBは始めに「信念」を伝えるメッセージ構造になっています。
<メッセージA>
- ベーカリー ◯◯◯
- 厳選した材料、高い醗酵技術、石窯の味わい
- ご来店をお待ちしています。
<メッセージB>
- わたしの子供は添加物が食べられません。だから自然素材だけで作ったパンを焼き始めました。今日もいいパンができたと思います。
- 厳選した材料、高い醗酵技術、石窯の味わい
- ベーカリー ◯◯◯
- ご来店をお待ちしています。
2つのメッセージを比較すると、メッセージBの方が心に響くのではないでしょうか。心に響くと人は誰かにそれを伝えたくなります。お客様が自分の言葉であなたのお店のことをSNSで語ってくれる。これをオーガニックリーチと呼びます。あなたもこのオーガニックリーチを増やすアプローチを、試してみてはいかがでしょうか。
4. まとめ
4.1 オーガニックリーチを増やすことが大切
毎日SNS経由でさまざまな情報にアクセスしますので、自分の投稿も読んでもらっているような気分になりがちですが、読まれているのは有名人の投稿だけです。商品情報を投稿しても誰も見ていません。
従って商品情報の周辺に転がっている、何か役に立つ情報を投稿してください。また企業の信念を投稿することも忘れないでください。面倒だと思われるかもしれませんが、これは仕事です。暇つぶしで投稿しているのではありませんので頑張りましょう。
SNSを使って商品を売り込もうとするのではなく、投稿によって驚きや共感を生み出し、オーガニックリーチを増やしていくことが大切です。