宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Institute などの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
生物に学ぶニッチ戦略
今回のテーマは「ニッチ戦略」です。もともと生物学で使われていた用語なのですが、いつの間にかマーケティングでも使われるようになりました。
生物学におけるニッチ戦略を知ることが、ビジネスにおけるニッチ戦略を知ることに役立つと考えています。今回は植物と昆虫のニッチ戦略から入っていきたいと思います。
・・・最初はカブトムシがトップ画像だったのですが、ちょっとグロいのでキツネにしてみました。キツネのニッチ戦略は、最後のまとめで少し解説しています (^^)
目次
1.1 ニッチ戦略とはなにか?
1.2 植物のニッチ戦略
1.3 昆虫のニッチ戦略
2. マーケティングにおけるニッチ戦略の成功事例
2.1 マーケティングにおけるニッチ戦略
2.2 カーブスの事例
3. まとめ
3.1 小さなニッチでナンバーワンを目指せ!
1. 自然界のニッチ戦略
1.1 ニッチ戦略とはなにか?
「ニッチ(niche)」とは、美術品や花瓶などを飾るために、壁面に作られた「くぼみ」のことです。本来は西洋の教会などに、よく見られる様式だったのですが、現代の住居にも取り入れられる様になりました。あなたのご自宅にもあるかもしれません。私の家にはありませんが。
マーケティングでも「ニッチ戦略」という言葉をよく使いますが、もともとは生物学の用語で、棲み分けなどの生態系を説明する際に使われます。
上記の写真では1つのニッチに2つのモノが置かれていますが、自然界においては、1つのニッチに1つの種しか存在し得ません。2つの種が重なり合うことはないのです。もし重なってしまうと、そこでは激しい生存競争が始まり、どちらかが淘汰されるまで続きます。いうなれば、自然界はナンバーワンの集まりなのです。
それではまず、植物のニッチ戦略から見ていきましょう。
1.2 植物のニッチ戦略
植物が生きてくい上で、大切なものが3つあります。それは、太陽光、水、そして土です。その中でも太陽光の奪い合いが、最も熾烈を極めます。この写真には、大きな樹木が写っていますが、中間サイズの樹木はほとんど写っていません。太陽光の奪い合いに負けて淘汰されたのです。
一方、この太陽光の奪い合いに対して、ニッチ戦略を仕掛けたのが、地面に生えている草です。幹を作って上を目指すのではなく、そのエネルギーを使って葉を広げ、地面を覆い尽くす戦略です。これにより、木漏れ日を効率よく集めることが出来ます。
1.3 昆虫のニッチ戦略
植物の次は昆虫のニッチ戦略を見ていきましょう。
カブトムシのオスは、クヌギやコナラといった樹木をテリトリーにしています。樹液を吸うために、テリトリーに入ってきたメスと交尾をして繁殖するのです。もしそのテリトリーに別のオスが侵入した場合には、激しい戦いとなります。その戦いで勝敗を分ける最大の要因は「体の大きさ」です。
当然体の大きい方が有利であるため、大きなカブトムシだけ生き残ります・・・と言いたいところなのですが、実際には小さなカブトムシもかなりの割合で存在しています。
中間サイズのカブトムシは、果敢にも大きなカブトムシに戦いを挑むのですが、残念ながら破れて淘汰されてしまいます。しかし、小さなカブトムシは戦いを挑みません。通常、カブトムシのオスは明け方に活動するのですが、この小さなカブトムシは深夜に活動します。大きなカブトムシが土に潜って寝ている間に活動し、樹液を吸いメスを見つけて交尾をするのです。時間をズラすことが、小さなカブトムシの生き残り戦略なのです。
2. マーケティングにおけるニッチ戦略の成功事例
2.1 マーケティングにおけるニッチ戦略
マーケティングにおける「ニッチ」とは、特定の消費者層に焦点を当て、その潜在的な課題を解決することで、独自の地位を確立することを指します。大企業はこのような潜在的な市場規模を無視したり、過小評価したりする傾向があるため、中小企業でもこの市場を専有することが可能です。
要するに、大企業との直接対決を避け、小規模な市場でナンバーワンになる戦略です。これはランチェスター戦略と似た考え方と言えるでしょう。
少し話がそれますが、このランチェスター戦略は海外ではほとんど知られていません。海外にはマイケル・ポーター氏を始めとする多くの戦略論の大家が存在するため、ランチェスター戦略が参入できるニッチがないのだと思います。
ちなみに、日本のAmazon.co.jpで「ランチェスター戦略」を検索すると365件ヒットしますが、米国のAmazon.comで「Lanchester strategy」を検索しても16件しかヒットしません。
さて話を戻しましょう。これからみなさんにマーケティングにおけるニッチ戦略の事例をご紹介します。
2.2 カーブスの事例
「カーブス(Curves)」とは、米国テキサス州に本社を置くフィットネスクラブで、全世界に展開しています。日本では株式会社カーブスホールディングスが運営しており、東証一部に上場しています。
カーブスの特徴は、中高年の女性にターゲットを絞り込んでいる点です。カーブスは単に体を鍛えるだけではなく、健康を維持するためのサービスを提供しています。女性専用のフィットネスクラブとして、利用者は化粧や服装に気を使う必要がなく、リラックスして利用できる環境が整っています。
カーブスのプログラムは、健康維持を目的としており、1回30分と短めの設定になっています。この短時間でのトレーニングは、忙しい中高年の女性でも無理なく続けられる工夫です。また、予約の必要がないため、空いた時間に気軽に通える点も人気の理由の一つです。
カーブスは、特定の顧客層に絞り込むことで、その層が求めているサービスを的確に提供しています。この戦略が功を奏し、急成長を果たしています。例えば、日本国内では、短期間で全国に数百店舗を展開し、多くの女性に支持されています。
さらに、カーブスは健康維持を重視するだけでなく、利用者同士のコミュニケーションやサポートも大切にしています。これにより、利用者はフィットネスだけでなく、心の健康も維持できる環境が整っています。
このように、カーブスは顧客を絞り込み、そのターゲット層が求めるサービスを提供することで、フィットネス業界において特別な地位を確立しています。
3. まとめ
3.1 小さなニッチでナンバーワンを目指せ!
小さなニッチでナンバーワンにならなければ、生き延びることが出来ない。これが自然界の掟です。ニッチは往々にして厳しい環境であるため、その環境になんとか適応しなければならないのですが、その適応戦略は多岐にわたっています。
ビジネスにおいても、ニッチ市場は同様に厳しい環境なのですが、そこにある潜在的な課題を解決する方法も、同じように多岐にわたっています。ビジネスの場合、自然界のように淘汰されることはないまでも、ナンバーツー以下では経営が苦しくなることは、間違いありません。小さな市場でナンバーワンになる、これこそが最も大切なことなのだと思います。
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ちなみにトップ画像はキツネです。キツネはタヌキと同じ生活圏なのですが、食べているものが違います。キツネはネズミなどの小動物を狩りますが、タヌキは狩りをせずに落ちているものを食べます・・・まぁ、この豆知識を知ったところで、使い道はなさそうですけど。