伝統工芸品の開発と販売:現代のライフスタイルに適応するには!?

伝統工芸品の開発と販売:現代のライフスタイルに適応するには!?

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


伝統工芸品の開発と販売

最近、金継ぎについてよく質問されます。それも、特に外国の人たちから。まぁ、グローバルミーティングなどで「休日は何をしてるの?」と聞かれたときに、「座禅ぐらいかなぁ」と答えているからだと思います。それで、日本の伝統文化に詳しいと思われているようです。

 

金継ぎは、壊れた器を金で修復し、新しい装飾品として生まれ変わらせる技法で、なかなか日本的で素敵な技術だと思います。海外の人々が興味を持つのも納得です。

 

ということで、このブログでは金継ぎだけではなく伝統工芸品全般の開発と販売について考察していきたいと思います。

 

そうそう、座禅で思い出しました。私は年に4回ほど断食をします。仕事に差し障りが出ないように、金・土・日の3日間だけ。断食中は体重が少し減るのですが、終わるとつい食べ過ぎてしまいリバウンド。

 

「プチ断食でダイエット!」のようなコピーを見ますが・・・いやいや、そんな簡単には痩せません。



目次


1. 課題と背景


テキスト:Issue、背景画像:頭を抱えるスーツを着た男性

1.1 伝統的工芸品産業の現状


日本の伝統的工芸品産業は、長い歴史を持ち、その技術と美しさは国内外で高く評価されています。しかし、現代社会においてその産業は大きな課題に直面しています。伝統的工芸品産業振興協会の統計データによれば、昭和54年(1979年)には288,000人の従事者と5,400億円の生産額を誇っていた伝統的工芸品産業も、平成28年(2016年)には従事者数が62,690人、生産額が960億円にまで減少しました 。これらの課題は外部環境の変化だけでなく、内部構造の問題にも起因しています。

 

1. 大量生産・大量消費社会の台頭: 技術革新と工業材料革命により、大量生産された低価格商品が市場に溢れています。消費者は価格や便利さを重視し、手作りの伝統工芸品の価値を理解しにくくなっています。この結果、伝統工芸品の販売量が減少し、生産者の経済的基盤が脆弱化しています。

 

2. 農村の衰退: 伝統工芸品の多くは農村に依存しており、農村の衰退が原材料の供給に悪影響を及ぼしています。特に、漆や木材、和紙原料などが不足しており、生産コストが増加しています。このような状況により、原材料の供給が不安定になり、生産の持続可能性が危機に瀕しています。さらに、原材料の価格高騰が製品価格に反映され、消費者にとって手の届きにくい存在となる可能性があります。

 

3. 生活様式の変化: 戦後の都市化と洋風化の進行により、伝統的な生活様式や文化が衰退しています。これにより、伝統工芸品の需要が減少し、特に伝統的な行事や生活文化に関連する製品の市場が縮小しています。プラスチック製品や家電製品の普及も、伝統工芸品の需要減少に拍車をかけています。

 

4. 雇用環境の変化: 重化学工業化に伴う労働力の移動や、徒弟制度の崩壊により、伝統工芸品産業に若者が集まりにくくなっています。現代の若者にとって、長期間の修行を必要とする徒弟制度は魅力的ではなく、技術の継承が困難になっています。これにより、熟練した職人が減少し、伝統工芸品の質の維持が難しくなっています。

 

5. 消費者の意識変化: 戦後の使い捨て思想の広まりにより、消費者は伝統工芸品の長期的な使用価値を認識しにくくなっています。価格や流行が重視され、一見地味なデザインの伝統工芸品は敬遠されがちです。このような消費者の購買行動の変化により、伝統工芸品の需要がさらに減少しています。

 

6. 核家族化の進行: 家族制度の変化により、伝統的な生活様式や価値観が受け継がれにくくなっています。親から子、子から孫へと伝えられてきた生活様式や文化の継承が難しくなり、伝統工芸品の需要が減少しています。この結果、次世代に技術や価値観を伝えることが困難になっています。

 

 

これらの課題は、伝統的工芸品産業の存続を危うくする要因となっています。しかし、これらの課題に対する具体的な解決策を見出すことで、伝統工芸品産業の再生を図ることが可能です。次のセクションでは、これらの課題を解決するための具体的なアプローチについて詳しく説明します。



2.  課題の構造


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2.1 課題の根本原因は何なのか?


伝統的工芸品産業が直面している課題は、単に外部環境の変化だけでなく、業界内部の構造的な問題にも根ざしています。以下に、これらの問題を詳細に説明します。

 

1. 革新の遅れ: 伝統的工芸品産業は、長年にわたり伝統技術やデザインの維持を重視してきました。しかし、この姿勢が新しい技術やデザインの導入を遅らせる結果となっています。例えば、現代の消費者は機能性やデザイン性を重視する傾向があり、古い技術やデザインだけでは市場競争力を維持することが難しくなっています。これにより、消費者のニーズに応えることができず、売上が減少しています。

 

2. マーケティングの不足: 多くの伝統工芸品メーカーは、製品の品質や歴史的価値に頼り、積極的なマーケティング活動を行ってきませんでした。これにより、若い世代や新しい市場に対する認知度が低くなっています。現代のマーケティング戦略を取り入れずにいることで、消費者の関心を引くことができず、結果として市場からの支持を失うことにつながっています。

 

3. 組織の分散と連携の欠如: 伝統的工芸品産業は、多くの地域で独立した小規模な生産者が存在し、業界全体としての連携が不足しています。これにより、情報共有や共同プロモーションが困難となり、効率的な資源配分や市場開拓が行えない状況です。個々の生産者が孤立して活動しているため、業界全体の競争力を高める取り組みが進んでいません。

 

4. 人材育成の困難: 伝統的工芸品産業は、長期間の修行を必要とするため、若い人材の確保が難しい状況が続いています。徒弟制度に基づく教育システムは現代の若者にとって魅力的ではなく、結果として技術の継承が困難になっています。若い世代の職人が減少することで、伝統工芸品の質の維持が難しくなり、業界全体の将来が危ぶまれています。

 

5. 市場の変化への対応不足: 市場環境や消費者のニーズが急速に変化している中で、伝統的工芸品産業はその変化に対応しきれていません。新しい市場動向や消費者の嗜好の変化に迅速に対応するための柔軟な製品開発やマーケティング戦略が欠如しています。これにより、消費者のニーズに合わない製品が多く生産され、市場での競争力を失っています。

 

6. 消費者の意識変化: 戦後の使い捨て思想の広まりにより、消費者は伝統工芸品の長期的な使用価値を認識しにくくなっています。価格や流行が重視され、一見地味なデザインの伝統工芸品は敬遠されがちです。消費者の購買行動が変化し、伝統工芸品の需要がさらに減少しています。これにより、消費者に対して長期的な価値を提供することが難しくなっています。

 

 

これらの体質的な問題が、伝統的工芸品産業の現在の課題を深刻化させている要因となっています。このような課題に対処するためには、業界全体の構造的な改革とともに、マーケティング戦略の見直しが不可欠です。次のセクションでは、これらの課題を解決するための具体的なアプローチについて詳しく説明します。



3. 解決策


テキスト:Solution、背景画像:木で作られた小さな階段と上昇を表す矢印

3.1 オーセンティックマーケティングとは?


まず初めにオーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)を開設しておきます。オーセンティックマーケティングは、企業の価値観やビジョンを消費者と共有し、それに基づいて商品やサービスを提供するマーケティング戦略です。この戦略の核心には、消費者との深い信頼関係を築くことがあり、その結果としてリピート購入や口コミによる新規顧客の獲得が期待されます。特に伝統工芸品産業のように、文化的背景や歴史的価値が重要な分野において非常に効果的です。

 

1. 価値観の明確化と共有

企業が持つ独自の価値観を消費者に明確に伝えることが重要です。伝統工芸品の場合、製品の歴史や職人の技術、地域の文化的背景などを強調します。例えば、ある特定の伝統工芸品がどのようにして作られ、その技術がどのように受け継がれてきたのかを消費者に伝えることで、その製品に対する理解と共感を深めてもらいます。

 

2. 顧客の価値観の理解

マーケティング活動が成功するためには、消費者の価値観を理解し、それに対応することが重要です。現代の消費者は、製品の品質やデザインだけでなく、企業の倫理観や社会貢献にも関心を持っています。伝統工芸品産業では、エシカルな製品作りや持続可能な資源の使用、地域社会への貢献などが消費者の価値観に訴える要素となります。

 

3. ストーリーテリング

企業の価値観を効果的に伝える方法の一つがストーリーテリングです。エモーショナルなストーリーを通じて価値観を伝えることで、顧客との感情的なつながりを強化し、ブランドへのロイヤリティを促進することができます。伝統工芸品の場合、製品がどのようにして開発され、どのような背景や思いが込められているのかを伝えることで、消費者の共感を得ることができます。

 

4. 透明性と誠実さ

価値観を共有するだけでなく、その価値観が実際の行動や決定にどのように反映されているかを明確にすることが重要です。これには透明性と誠実さが求められ、企業は製品の成分や製造過程、安全性に関する情報をオープンにし、自らの言動が一致していることを示す必要があります。消費者は企業の透明性と誠実さに基づいて信頼を築き、長期的な関係を形成することができます。

 

 

オーセンティックマーケティングは、企業と消費者の間に深い信頼関係を構築し、消費者の価値観に応じた商品やサービスを提供することで、伝統工芸品産業の持続的な発展に貢献します。このマーケティング戦略を通じて、伝統工芸品の魅力を再発見し、現代の消費者にその価値を効果的に伝えることが可能になります。


3.2 ターゲット層をセグメンテーション


伝統的工芸品の市場は、多様な消費者層から構成されており、それぞれの層に対して適切なマーケティング戦略を取ることが成功の鍵となります。以下に、主なターゲット層を分け、それぞれの特徴とニーズを詳述します。

 

/ 伝統を重視する層 /

 

特徴と価値観:

  • この層の消費者は、伝統工芸品の持つ歴史的、文化的価値を高く評価します。彼らは製品の背景にある物語や職人の技術、そしてその地域特有の伝統を重視します。
  • 彼らは質の高い製品を長期間愛用することを好み、製品の独自性や希少性に価値を見出します。この層の消費者は、製品の購入を通じて伝統の保存と継承に貢献したいと考えています。

 

ニーズと期待:

  • 認知度の向上: 多くの消費者が伝統工芸品の存在を知らないため、この層には製品やその背景にある物語を伝える努力が必要です。情報の提供と教育を通じて、伝統工芸品の魅力を伝えることが重要です。
  • 体験価値: 伝統工芸品の製作過程を見学したり、実際に体験する機会を提供することで、消費者の理解と共感を深めることができます。

 

 

/ 新しいものを重視する層 /

 

特徴と価値観:

  • この層の消費者は、伝統的な技術や素材を活かしつつも、現代的なデザインや機能を求めます。彼らは最新のトレンドに敏感であり、伝統と現代の融合に魅力を感じます。
  • 独自性や革新性を重視し、他とは違う特別な製品を求める傾向があります。この層の消費者は、伝統工芸品に新しい価値を見出し、それを日常生活に取り入れたいと考えています。

 

ニーズと期待:

  • 新しいデザインと用途の提案: 伝統技術を活かしながらも、現代的なデザインや新しい用途を提案することで、この層の消費者のニーズに応えることができます。若手デザイナーやアーティストとのコラボレーションが効果的です。
  • デジタルプラットフォームの活用: ソーシャルメディアやオンラインショップを通じて、新しい製品やデザインを積極的にプロモーションすることが求められます。特に視覚的に魅力的なコンテンツを通じて、消費者の関心を引くことが重要です。

 

 

ターゲット層を明確に分け、それぞれのニーズに応じたマーケティング戦略を展開することで、伝統工芸品の市場拡大と持続的な成長が期待できます。次のセクションでは、それぞれのターゲット層に対する具体的な解決策について詳しく説明します。


3.2 ターゲットごとの解決策


オーセンティックマーケティングの手法を用いる際、まず初めに作り手の信念を明確にすることが重要です。信念が曖昧だと、ターゲットを決定することができず、新商品のコンセプトも定まりません。結果として、ターゲットの購買意欲に刺さる商品を作ることが難しくなります。

 

それでは、伝統的工芸品産業がそれぞれのターゲット層に対して効果的にアプローチするための具体的な解決策を以下に示します。

 

 

/ 伝統を重視する層への解決策 /

 

1. 認知度を高める施策:

  • ストーリーテリング: 伝統工芸品を守る職人たちの物語を作成し、ブログ、SNS、動画などを通じて広めます。例えば、製品がどのようにして作られ、その過程でどのような技術や歴史があるのかを詳しく紹介することで、消費者の理解と共感を深めます。
  • デジタル広告とインフルエンサーマーケティング: 作成したコンテンツをデジタル広告やインフルエンサーを通じて広めます。特に関連するインフルエンサーと協力し、彼らのフォロワーに対して製品の魅力をアピールすることで、ターゲット層への認知度を高めます。

 

2. 体験してファンになってもらう施策:

  • ワークショップやイベントの開催: 伝統工芸品の制作体験や職人との交流イベントを開催し、実際に製品に触れてもらう機会を提供します。これにより、消費者が製品の価値を体感し、深い感動を得ることができます。
  • デジタル体験の提供: VRやARを活用して、製品の制作過程や職人の技術を仮想的に体験できるコンテンツを作成します。物理的なイベントが難しい場合でも、消費者に製品の魅力を伝えることができます。
  • サブスクリプションモデル: 定期的に伝統工芸品を届けるサブスクリプションサービスを提供し、継続的な接触機会を創出します。これにより、消費者が定期的に製品に触れることで、その価値を再確認することができます。

 

 

/ 新しいものを重視する層への解決策 /

 

1. デザイナーとのコラボレーション:

  • 若手デザイナーとのコラボ: 若手デザイナーや現代アーティストと協力し、伝統技術を活かしつつ現代的なデザインや新しい用途に展開します。これにより、現代の消費者のニーズに応える製品を提供します。例えば、伝統的な技術で作られた現代的なインテリアアイテムやファッションアイテムを提案します。
  • クリエイティブワークショップの開催: デザイナーやアーティストとの共同作業を通じて新しい製品を開発し、その過程を消費者に公開することで、製品の独自性と魅力をアピールします。

 

2. ソーシャルメディアとデジタルマーケティングの活用:

  • ソーシャルメディア活用: インスタグラムやピンタレストなどの視覚的なプラットフォームを活用し、新しいデザインや製品のプロモーションを行います。特に、視覚的に魅力的なコンテンツを定期的に投稿することで、消費者の関心を引きます。
  • オンラインキャンペーンの実施: 新製品のローンチや特別キャンペーンをオンラインで実施し、消費者の注目を集めるとともに、ブランドの認知度を高めます。

 

3. 限定商品やコラボ商品:

  • 限定商品やコラボレーション商品を展開: 希少性や独自性を強調した商品を展開し、新しいものを求める層の関心を引きます。例えば、期間限定の特別デザインや数量限定のコラボアイテムを提供することで、消費者に対するプレミアム感を高めます。
  • オンライン限定商品: オンラインストア限定の商品を提供し、デジタルマーケティングを通じて特別感を演出します。

 

これらの解決策を通じて、伝統的工芸品産業はそれぞれのターゲット層に対して適切にアプローチし、市場での競争力を高めることができます。また、消費者との深い信頼関係を築くことで、持続可能な成長を実現することが可能です。



4. まとめ


テキスト:Conclusion、背景画像:ショートカットで丸いイヤリングをつけた笑顔の女性

4.1 顧客をよく知ることが大切


伝統工芸品のプロモーションにおいて、成功の鍵となるのは、以下の4つの要素です。

 

まず、最も重要なのは顧客を深く知ることです。顧客のニーズや価値観を理解することで、より的確なマーケティング戦略を立てることができます。次に、伝統工芸品そのものだけでなく、それらを作る職人を紹介することが大切です。職人の技術や情熱を伝えることで、製品に対する共感と信頼を築くことができます。

 

さらに、顧客に体験してもらうことも効果的です。実際に製作過程を見学したり、ワークショップに参加してもらうことで、製品の価値を実感してもらい、深い理解を促します。そして、若手デザイナーやアーティストとのコラボレーションを進めることで、伝統と現代を融合させた新しい価値を創造し、幅広い顧客層にアピールすることができます。

 

これらの要素を組み合わせて、伝統工芸品の魅力を効果的に伝え、持続的な成長を目指しましょう。

  

 

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