宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
マーケティングは本当に科学なのか?
ビッグデータというバズワードが世間の注目を浴びるようになってから、「マーケティングは科学だ!」と主張する人たちが増えたように思います。
大量に集めたデータを、統計的な手法を用いて相関関係を分析し、どのような因果関係があるのか仮説を立てる。確かに有益な方法だと思います。
ただそれで科学的だと主張してもよいものか、チョコっと疑問が残るところです。今回はマーケティングは科学なのか、それともアートなのかについて、議論を進めたいと思います。
目次
1. マーケティングにおける科学的手法
1.1 ビッグデータと統計解析
ビッグデータと統計解析の進化は、マーケティング業界に大きな影響を与えました。かつては、主観的な意見や過去の経験を元に、マーケティングにおける意思決定を行っていましたが、より客観的な判断ができるようになったのです。
これにより、マーケティングの効果測定、ターゲットセグメンテーション、商品開発、広告配信など、多岐にわたる分野での意思決定が、迅速かつ容易に行えるようになりました。
さらにはABテストなどのデータドリブンな手法を用いることで、より精度の高い意思決定が、自動的に行えるようにもなってきています。
このようなビッグデータと統計解析の進化は、マーケティングにおいて、より効果的かつ効率的な戦略立案や意思決定を可能にしました。
1.2 AIがマーケティングに与える影響
現在注目を集めているAIは、マーケティング分野において、さらに重要な役割を果たすことが予想されます。AIを活用することによって、より正確なターゲティングを実現する事ができる上に、そのマーケティング戦略の効果を予測することも容易になります。
また、AIによるマーケティングの自動化は、その効率性を高め、コストの削減が期待できる上、リアルタイムでのデータ収集・分析・応答も可能になります。
これは、顧客との関係を改善し、顧客とのコミュニケーションをスムーズにするために、大きな役割を果たすことが期待されます。
2. マーケティングは科学なのか
2.1 マーケティングを科学だと主張する根拠
マーケティングが科学だとされる主な根拠は、データと統計解析を用いたマーケティングの手法にあります。
近年では、デジタルマーケティングにおいて、ABテストなどの実験的な手法が普及してきています。これらの手法は、従来の経験に頼るマーケティング手法に比べて、データに基づく科学的なアプローチであるとされています。
また、マーケティングの目的は、商品やサービスを効果的に販売することなので、ターゲット層や市場動向などのデータを収集し、それを分析することが、今後さらに重要になってきます。
このように、データや分析を重視する姿勢も、マーケティングを科学だと考える理由となります。
2.2 科学だとする具体的な事例
1. Airbnb:Airbnbは、データ分析に基づいて、顧客に最適なタイプの動画広告を配信することによって、マーケティングキャンペーンを成功させています。彼らは、広告の対象となる顧客の属性や嗜好に基づいて、動画広告のキャラクターやシナリオを変更し、より高いクリック率とコンバージョン率を達成しています。
2. Netflix:Netflixは、データマイニング技術を使用して、顧客の嗜好に基づいて映画やテレビ番組を推奨するシステムを構築しています。彼らは、顧客の視聴履歴、お気に入りのジャンル、その評価などのデータを収集し、独自のアルゴリズムを使用して、顧客に最適なコンテンツを提供しています。このように、Netflixは顧客の好みに合わせた顧客体験を提供し、ロイヤルティを高めることに成功しています。
3. Spotify:Spotifyは、音楽データの解析技術を使用して、顧客の好みに基づいた広告キャンペーンを実施しています。彼らは、顧客のリスニング履歴、プレイリスト、その評価などのデータを収集し、その情報を分析して、広告を配信するターゲットを選択しています。これにより、Spotifyは、より関連性の高い広告を提供し、クリック率やコンバージョン率を向上させています。
3. マーケティングはアートなのか
3.1 マーケティングをアートだと主張する根拠
マーケティングは、商品やサービスを人々に魅力的に見せるための手段であり、それには芸術的な感性が必要不可欠です。たとえば、広告の制作やブランドイメージの構築においては、デザインやイメージ戦略が重要な役割を担っています。
また、マーケティングの目的は商品やサービスを売ることにあります。そのため、人々の心理や行動、文化や社会背景などについて深く理解することが大切です。それらの情報をもとに創造性を発揮して、戦略を立てる必要があります。この創造性こそがアートに似た側面であり、マーケティングをアートだと捉える理由となります。
3.2 アートだとする具体的な事例
1. Apple:Appleは、製品デザインやブランドイメージに重点を置いていることで知られています。彼らは、製品の美しさや使いやすさに注目し、顧客に強いエモーショナルなインパクトを与えることを目指しています。また、彼らのマーケティングキャンペーンは、美しい映像や音楽、ストーリーテリングを活用することで、Apple独自の世界観を作り出し、顧客の心をつかむことに成功しています。
2. Red Bull:Red Bullは、エナジードリンクの市場でのリーダー的な企業として知られています。彼らのマーケティングキャンペーンは、アクションスポーツやエンターテインメントイベントなどを通じて、若い世代にエネルギーと活力を与えることを目的としています。彼らは、世界中で開催されるスポーツイベントや音楽フェスティバルを支援し、その中心的なスポンサーとして知られています。
3. Nike:Nikeは、スポーツ用品のアパレルメーカーとして、世界的に有名なブランドです。彼らのマーケティングは、スポーツに対する情熱やチームワークなどのメッセージを伝えることに重点を置いています。有名アスリートやスポーツチームを広告キャンペーンに起用し、励ましや共感を呼び起こすことで、ブランドの認知度やロイヤルティを高めています。
4. 統計を使うと科学的なのか
4.1 統計を使うと科学的だと主張できるのか
マーケティングでは、統計的手法を利用して、商品やサービスの売り上げや、顧客の購買行動を予測したり、キャンペーンの効果測定を行ったりすることが一般的です。これにより、データをもとに客観的な分析を行い、正確な判断を下すことができます。
ただし、統計的手法はあくまでもデータを分析するための手段であり、結果が全てではありません。例えば、商品やサービスが成功するためには、顧客ニーズに合った提案やストーリーを作り出す必要があります。そのため、統計的手法だけに頼っていては、顧客の気持ちや文化的な背景を見逃すことがあります。
4.2 再現性がないので科学的だとは言えない
科学的な手法とは、実験や分析方法を詳細に記録し、その手順を他の人が再現できるようにすることが求められます。しかし、マーケティングにおいては、データの収集方法や解析手法を詳細に記録することが難しく、再現性が担保されているとは言い難いとされています。
また、マーケティングは人間の行動や感情に大きく関係しているため、データに基づいた科学的アプローチだけでなく、アート的な感性や洞察力も必要とされます。マーケティングは統計的な手法を用いることができるアートであり、アート的な観点からの判断も必要不可欠とされています。
5. まとめ
5.1 マーケティングは進化を続ける
市場は、多様な人々のニーズや欲求、競合環境、社会的・文化的背景などの複雑な要因に影響を受けてしまいます。同じ状況を再現することが困難であり、同じマーケティングプロモーションを実施しても、同じ結果が出ないことが少なくありません。
このように、マーケティングには再現性がないため、いまのところ科学だと呼べるレベルまで到達していません。
今後もマーケティングの発展に伴い、科学的手法や技術がますます進化していくことが予想されます。しかし、それでもマーケティングがアートとしての要素を持ち続けることは変わらないでしょう。
そういえば、孫子の兵法は「Sun Tzu's Art of War」って言いますよね。