宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
提案書の構成
あなたの会社の提案書、どれでも構わないので、ひとつ開いてみてください。解りやすく書かれているのなら、この先を読む必要はありません。また次回お会いいたしましょう。サヨウナラ。
文字が多い、内容がぶつ切り、ストーリーがない、そう感じたあなた・・・最後まで読んでください。
今回は、なぜ提案書が解りにくくなってしまうのか、その原因について「提案書の構成」の観点から解説していきたいと思います。
あと今回はデザインについては触れていません。みなさん、小学校の図工の時間で、薄々は気づいていると思いますが、デザインはかなり才能に左右されてしまいます。
デザインセンスのない人にデザインのトレーニングをするよりも、デザインセンスのある人に任せてしまった方が良いでしょう。そのため今回は触れませんでした。
それでは提案書の構成について、一緒に見ていきましょう。
目次
1. 提案書とカタログの違いとは
1.1 カタログの構成
提案書もカタログも、お客様に情報を届けるという意味では同じなのですが、その読まれ方に違いがあります。提案書の構成を理解していただくには、まずカタログの違いを理解することが近道です。
カタログを制作する上で最も重要なことは、お客様が手に取りたくなるということです。手にとってもらえないカタログは、資源ゴミでしかありません。
そのためには、人の目を引くビジュアルを持たせる必要があります。カタログの全面に「美しい」「かわいい」「美味しそう」といったような、注目を集めるような画像が、大きく掲載されているのは、そのためです。
手に取ってもらった後には、読んでもらわなければなりません。そのために大きなフォントでキャッチコピーが書かれています。このキャッチコピーが読み手の心に響くようなら、ひと通り目を通してもらえることになります。
ただ、ひと通り目を通すだけで、全ての文章を読むわけではありません。興味のあるところだけ読み飛ばしてオシマイ。これがお客様がカタログを見る際のプロセスです。
1.2 提案書の構成
一方、提案書はカタログと違って、手に取ってもらえるかどうかを心配する必要はありません。お客様と面談するときに手渡しした提案書は、間違いなく手に取ってもらえます。表紙のデザインが気に入らないからと言って、それを開かないということはないのです。
カタログであれば、カタログスタンドの減り具合などから、ビジュアルがダメなのではないかと気づく場合もありますが、提案書の場合は、必ず開いてもらえるので、その気づきがありません。
ただ、人が何かを判断する際に、第一印象というのは非常に重要な要素となってきます。カッコ悪い提案書を出してくる会社は、残念ながら会社もカッコ悪いと評価されてしまうので注意が必要です。
さて、ここから本題なのですが、提案書を、昭和型、平成型、令和型、この3つに分けで解説したいと思います。各時代に完全に一致しているという訳ではないのですが、イメージをつかみやすくするために、便宜的に分けさせていただきました。
2. 昭和型の提案書
2.1 昭和型の提案書/プロダクトセリング
昭和型の提案書の特徴としては、多くの場合、プロダクトセリングという手法に基づいて書かれています。商品やサービスの機能やスペックが、全面に押し出されて内容になっています。
上記の提案書の模式図を見てください。これが基本的な構成です。
まずタイトルには商品やサービスの名称が書かれています。しかしその名称だけでは、いったいどのようなモノなのか、想像することができません。これも昭和型の提案書の特徴です。
タイトルの下には、商品やサービスの機能が列挙されています。自分たちの商品やサービスには、このようにたくさんの機能がついているので、お買い得であることを執拗にアピールしてきます。
最後にお客様にとってのメリットが書かれています。「これだけの機能がついていて、この価格であれば大満足でしょう!」といったようなことが書かれています。
2.2 昭和型の問題点とは
この昭和型の提案書のどこに問題があるのか分かりますか?
それはこの機能を列挙してしまっているところにあります。お客様は何かの悩みや問題を解決するために商品を購入します。自動車を購入する場合でいうと、家族5人で旅行に行きたいとする人に、エンジンの最高出力をアピールしても意味がありませんし、高速道路を爽快に走りたいという人に、最小回転半径をアピールしても全く響きません。
この昭和型の提案書には、その機能とスペックが列挙されています。仮に10項目の機能が列挙されていたとしても、顧客が本当に必要な機能は3項目ぐらいで、その他は何の興味もありません。
これが提案書ではなくカタログであれば、不要な部分は読み飛ばせばよいのですが、提案書の場合は、ご丁寧にも、プレゼンテーターが1項目ずつ読み上げてくれます。
関心がある3つの機能よりも、興味のない7つの機能を、より多くの時間をかけて説明されるのですから、聞く方からすれば、「つまらない話を長々と聞かされた」という印象が残ります。
作れば売れた時代であれば、この構成でも通用したのでしょうが、現在の状況では、かなり厳しいと言えます。さすがに最近では、この構成を見かけることは少なくなりました。
3. 平成型の提案書
3.1 平成型の提案書/ソリューションセリング
作れば売れた時代から、作っても売れない時代へ突入です。取りあえず必要なものは手に入れたので、消費者の購買意欲が大きく下がった時代、それが平成だと言えるのではないでしょうか。
商品の機能やスペックをアピールしても購入につながらないので、新しいアプローチが出現します。それがソリューションセリングです。
お客様は何かの課題を抱えており、自分たちの商品を購入すれば、それを解決することができますよと、耳元でささやく戦術です。
提案書の構成を見ると、まずタイトルに「貴社の抱えている課題」とあり、その後に事前ヒアリングした課題が列挙されています。
また締めくくりとして、それらの課題に対する解決策、いわゆるソリューションが記載されている構成になっています。
書かれていることは、事前にヒアリングを受けた内容であるため、顧客にとっては全て自分ごとであり、読み飛ばすような内容は記載されていません。
そのソリューションの効果の度合いや価格に対する懸念はあるものの、提案されているソリューションを購入すれば、現在の課題は解決されます。
プロダクトセリングをベースにした、昭和型の提案が激減したのも、当然の帰結と言えるでしょう。
しかし、ソリューションセリングをベースにした、この平成型の提案書には、ひとつだけ大きな問題が内包されています。
3.2 平成型の問題点とは
昭和型のプロダクトセリングと比較して、平成型のソリューションセリングは、お客様に対して圧倒的な訴求力を持っています。
そのために、多くの企業がこの手法を採用しました。
どの会社の営業マンも、お客様へ訪問して「貴社の課題を教えて下さい」と呪文のように唱え始めたのです。
ソリューションセリングでは、お客様からヒアリングした課題をもとに提案書を作成します。しかしながら、この課題を聞いているのは、あなただけではありません。競合他社の営業マンも、この課題を聞いているのです。
同じ課題を聞いた上で、その解決策を提案するのですから、提案する内容に大きな違いはありません。ほとんど同じ内容の提案になってしまいます。
提案内容で差別化ができなくなってしまいますので、最終的には価格競争になってしまいます。
4. 令和型の提案書
4.1 令和型の提案書/インサイトセリング
この価格競争が激化する中で、現れたのがインサイトセリングです。インサイトとは「洞察」という意味で、お客様から課題を聞いて、それに対する解決策を提案するのではなく、お客様がまだ気づいていない課題を指摘して、その解決策を提案するものです。
あなたから指摘を受けて、初めて気がついた課題ですので、提案するのはあなただけです。後からコンペになるのではないかと危惧される方もいると思いますが、一般的な企業は、あなたから指摘を受けた新たな気付きに対して、感謝の念を抱いていますので、コンペになることはないと考えて良いでしょう。
ただこれには大きな問題が一つあります。それはお客様がまだ気がついていない課題を、自分たちが気づくことができるのか、という点です。
4.2 インサイトを見つけ出す方法とは
インサイトを見つける方法は、大きく2つ存在します。
1つ目は過去の提案を棚卸しする方法です。他のお客様が課題として認識されていたにもかかわらず、いまから提案をしようとしているお客様はまだ気づいていない、そういう課題は意外と多いものです。これを提案することがひとつ挙げられます。
ただ、この方法は、必ずインサイトを見つけることができる訳ではありませんので、普遍的に使える手法ではありません。
そこでお勧めするのは、2つ目の手法、経営理念に基づいた提案をする方法です。お客様はさまざまな理念やビジョンを持ち、それを実現するために企業活動を行っています。
お客様のために支援できる内容を、ひとつの部門に閉じたものではなく、提案の抽象度をより高めて、全社横断的な課題を解決する、少なくともその一歩になるような提案を行うのです。
お客様が理念やビジョンを実現するには、どこにゴールを設定すれば良いのか、途中の通過点はどこにするべきなのか、それを実現するために自分たちはどのような貢献ができるのか、それらを高い視点から提案するのです。
実現するゴールが近ければ、そこに至る道も多くはありません。従って提案の内容が似てきます。近所のコンビニへ行くのに、多くのルートがないのと同じです。
逆にゴールが遠ければ、そこに至る方法も多数存在します。東京から大阪に行くのであれば、新幹線、飛行機、自動車、自転車、徒歩、手段も様々ですし、ルートも複数存在します。複数の方法があるということは、自社にとっても最も得意な道を案内すれば良いので、提案の内容に独自性出てきます。
多くの企業のビジネスプランは、まず部門ごとにプランを立てることから始まります。その後、事業部長がそれらのプランをホッチキスで止めて、経営企画部が表紙を作って出来上がりです。
部門最適にはなっていますが、全社最適にはなっていません。どう考えてみても、部門最適なプランの寄せ集めが、経営理念やビジョンを実現することはないのです。従って経営者層に対して全社横断的な提案すれば、あなたの提案は、必ず高い独自性を発揮することができるのです。
この独自性の高い提案こそが令和型の提案、いわゆるインサイトセリングなのです。
なお、経営者層へのアプローチにつきましては、別のブログ記事を用意していますので、そちらをご参照下さい。
- リンク:新規で役員のアポイントを取る方法
5. まとめ
5.1 経営者は提案書の定期的な刷新を指示すべき
時代は大きく動いているにも関わらず、十年一日の提案を行っている企業が少なくありません。
特に中間管理職にある人たちは、少なくとも若い頃に、提案活動で成功を収めたので、その地位にあるだと思います。その成功体験をいつまでも引きずっているため、提案内容が進歩しないのです。
ただ、その部下たちは中間管理職が求める提案書が、「古い」ということに気づいています。ただ誰もそれを指摘できないだけです。
この指摘を行うことは経営者の役割です。提案書の内容について細々と指摘するのではなく、定期的に提案書のフォーマットを変更を指示しておけば、常に時代にあった提案内容に刷新されていきます。
また、社内のリソースだけで上手く刷新できないようであれば、外部のコンサルタントなどを巻き込んで、タスクフォースを立ち上げるのも良い方法です。
時代が変わると購買行動が変わります。それに即した内容の提案にしていくことが大切です。