宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
顧客は常に企業を評価し続けている
ビジネスの成功において、顧客との長期的な関係を築くことは不可欠です。しかし、顧客がなぜ離れてしまうのか、その理由を正確に理解することは簡単ではありません。本ブログでは、顧客の離反を防ぐために企業が取るべき戦略について考察します。
顧客接点管理(Customer Touchpoint Management)は、顧客が企業と関わるあらゆるポイントでの体験を一貫して高品質に保つための手法です。これにより、顧客満足度とロイヤルティを向上させることができます。この記事では、顧客接点管理の本質やその重要性、企業に実装する際の注意点、そして成功事例などを通じて、効果的な顧客接点管理の方法を具体的にご紹介します。
まぁ簡単に言うと、顧客との接点において1か所でも下手を打てば、企業に対する評価はダダ下がり・・・というお話です。
目次
1.1 顧客接点管理とは何か?
1.2 顧客接点管理とカスタマージャーニーの関連性
2. 顧客接点管理の活用事例
2.1 具体的な活用事例:クリーブランドクリニック
3. 顧客接点管理:ここを押さえろ!
3.1 従業員の誠実な姿勢が成功のカギ
4. 顧客接点管理の実装ステップ
4.1 実装するための具体的なステップ
5. 顧客接点管理のメリットとデメリット
5.1 メリット
5.2 デメリット
6. まとめ
6.1 顧客接点管理の今後の可能性
1. 顧客接点管理とは?
1.1 顧客接点とは何か?
顧客接点管理(Customer Touchpoint Management)とは、企業が顧客との関わりやコミュニケーションを最適化し、顧客満足度やロイヤルティを向上させるために、顧客と企業が接触する様々な顧客接点(タッチポイント)を統合的に管理・最適化するプロセスです。
顧客接点とは、顧客が企業やその製品・サービスに関わるあらゆる場面での接点のことで、Webサイト、SNS、Eメール、広告、店舗、カスタマーサポート、さらには商品やサービスそのものも含まれます。企業が顧客接点管理を行う目的を、一緒に見ていきましょう。
1. 短期的な顧客満足度の向上: それぞれの顧客接点における体験を通じて、顧客のニーズや期待に迅速に応えることに焦点を当てています。これにより、即時的な顧客満足度を高め、顧客が製品やサービスに満足し、その場でのポジティブなフィードバックを得ることを目的とします。
2. 長期的な顧客ロイヤルティの向上: 顧客との長期的な関係構築に焦点を当てています。一貫した高品質の体験を提供することで、顧客のブランドに対する信頼と忠誠心を築きます。これにより、リピート購入や口コミによる新規顧客の獲得を促進し、顧客が企業に対して継続的に支持するようになることを目指します。
3. 結果としてのビジネスの促進: 顧客満足度とロイヤルティの向上を通じて、ビジネス全体の成長を目指します。顧客の満足度は企業の成長を支える重要な要素となり、売上や利益の拡大、マーケットシェアの向上を図ることができます。
顧客接点管理を効果的に行うためには、顧客データの収集・分析、カスタマージャーニーマップの作成、顧客接点の最適化、効果測定・改善など、様々なプロセスが必要です。また、企業全体で顧客中心の考え方を共有し、異なる部門が連携して取り組むことが重要です。
1.2 顧客接点管理とカスタマージャーニーの関連性
カスタマージャーニーとは、顧客が製品やサービスを知り、興味を持ち、購入し、利用するまでの一連のプロセスを示す概念です。これは、顧客が企業と関わるすべての顧客接点で体験する旅路(ジャーニー)を視覚的に表現したもので、顧客の行動や感情、ニーズを深く理解するためのフレームワークです。一般的なカスタマージャーニーマップのステージは、以下の通りです。
- 認知:顧客が商品やサービスの存在を知る
- 検討:顧客が情報収集や比較検討を行う
- 購入:顧客が商品やサービスを購入する
- 使用:顧客が商品やサービスを利用する
【参考】カスタマージャーニーマップのサンプル
顧客接点管理においてカスタマージャーニーを作成する意味は、顧客が企業や製品とどのように関わるかを全体的に把握し、それぞれの顧客接点での体験を最適化するためです。これにより、顧客の視点を理解し、行動や感情の流れを把握することで、顧客のニーズや期待を明確にすることができます。
顧客接点管理とカスタマージャーニーは相互に関連しながら、企業が顧客体験を向上させることに寄与します。これらを通じて、顧客ニーズに応じたサービスやコンテンツを提供することで、顧客満足度やロイヤルティを高め、ビジネス成長につなげることができるのです。
2. 顧客接点管理の活用事例
2.1 具体的な活用事例:クリーブランドクリニック
クリーブランドクリニック(Cleveland Clinic)は、米国オハイオ州クリーブランドに本拠を置く、世界有数の総合医療機関です。患者との接点を管理するために、下記のような取り組みを行いました。
1. 患者への満足度調査: 患者に対して定期的に満足度調査を実施し、常に改善に努めています。特に顧客から直接届くクレームなどについては、迅速な対応を図っています。
2. 情報システムへの投資: 患者体験を向上させるために、下記のような情報システムへの投資を実施しています。
- 電子カルテシステム(Electronic Health Records, EHR): すべての医療情報をデジタル化することで、医療スタッフが迅速に患者の医療情報にアクセスできる。
- 患者ポータルサイト(MyChart): オンラインで自分の医療情報にアクセスすることができ、医師とのメッセージのやり取りも可能。
- 遠隔医療(Telemedicine): 患者が在宅のまま医師の診療を受けることができる。
- オンライン予約システム: 患者が簡単に次回の診療の予約をすることができる。また予約業務のコスト削減にもつながる。
3. 医療スタッフのトレーニング: 患者に対する対応力を向上させるために、医療スタッフ向けのトレーニングを実施しています。
患者の声に対応するために情報システムに投資をし、医療スタッフへのトレーニングも欠かさないなど、他の医療機関にとっても参考となる事例ではないでしょうか。
3. 顧客接点管理:ここを押さえろ!
3.1 従業員の誠実な対応が成功のカギ
顧客接点管理の目的は、顧客との長期にわたる信頼関係を築くことです。この信頼関係を構築するためには、顧客を深く理解し、その要望に誠心誠意応える姿勢が不可欠です。しかし、単にマスとしての顧客を理解するだけでは不十分です。個人としての顧客を知ることが求められます。
個々の顧客を理解する重要性:顧客接点管理においては、顧客一人ひとりのニーズや期待を把握し、それに応じたサービスを提供することが重要です。顧客の要望に対して真摯に応えようとする姿勢は、顧客満足度を高め、信頼関係を強化する鍵となります。
手作業による限界とシステム化の必要性:しかし、すべての顧客に対して手作業で対応することは、非常に多くの工数を必要とします。この工数増大は、結果としてコストの増加を招きます。もしこの増加したコストを顧客に転嫁することになれば、顧客との信頼関係が損なわれる可能性があります。そこで、システム化や自動化が不可欠となります。
システム化と自動化による効率化:顧客接点管理をシステム化し、自動化することで、個々の顧客に対して効果的かつ効率的に対応することが可能になります。システムは、顧客データを収集・分析し、パーソナライズされたサービスを提供するための基盤を提供します。これにより、従業員はより重要な業務に集中でき、顧客に対して高品質なサービスを提供することができます。
顧客接点管理は支援ツールでしかない:重要なのは、顧客接点管理は従業員が顧客をサポートするための支援ツールに過ぎないという点です。システム化や自動化が進んでも、最終的には従業員の誠実な対応が顧客の信頼を得る要因となります。システムはそのプロセスを支援し、効率化するためのツールであり、顧客と直接向き合うのは従業員です。
顧客接点管理の本質は、顧客一人ひとりを理解し、そのニーズに応えることで信頼関係を築くことにあります。システム化や自動化を通じて効率化を図りつつも、顧客対応の最前線に立つ従業員の役割は変わりません。顧客接点管理を効果的に活用することで、顧客満足度と信頼関係を高め、長期的な成功を目指しましょう。
4. 顧客接点管理の実装ステップ
4.1 実装するための具体的なステップ
顧客接点管理を実装する際の具体的なステップを見ていきましょう。プロジェクトがすでに始まっている方に向けて、具体的な手順を詳しく説明します。これから検討を始める方は、斜め読みや読み飛ばしでも大丈夫です。
/ 計画フェーズ (Planning Phase) /
1. 目標設定:顧客接点管理の具体的な目標を設定します。例:顧客満足度の向上、ロイヤルティの強化、売上の増加など。
2. カスタマージャーニーマップの作成:顧客が企業とどのように関わるかを視覚的に表現し、顧客接点を特定します。各ステージ(認知、興味、購入、利用、サポート)でのタッチポイントをマッピングします。
3. KPIの設定:成功を評価するための主要業績評価指標(KPI)を設定します。例:顧客満足度スコア(CSAT)、ネットプロモータースコア(NPS)、リピート購入率など。
/ 準備フェーズ (Preparation Phase) /
4. データ収集システムの整備:顧客データを収集・管理するためのシステムを導入・整備します。例:CRMシステム、分析ツールなど。
5. チーム編成とトレーニング:顧客接点管理を担当するチームを編成し、必要なトレーニングを実施します。各部門が連携しやすい体制を構築します。
6. プライバシー対策の確立:顧客の個人情報を適切に管理し、プライバシー保護のための方針や手続きを確立します。
/ 実施フェーズ (Execution Phase) /
7. 改善策の実施:計画フェーズで特定した改善策を実施します。例:ウェブサイトのユーザビリティ向上、カスタマーサポートの対応強化など。
8. マーケティングキャンペーンの展開:パーソナライズされたマーケティングメッセージやプロモーションを展開し、顧客接点での体験を向上させます。
/ モニタリングフェーズ (Monitoring Phase) /
9. KPIの測定と分析:設定したKPIを定期的に測定し、データを分析します。例:CSATスコアの変化、NPSの推移など。
10. フィードバックの収集:顧客からのフィードバックを収集し、改善点を特定します。例:アンケート調査、オンラインレビューなど。
11. 継続的な改善:分析結果とフィードバックを基に、さらに改善が必要な箇所を特定し、新たな施策を計画・実施します。このサイクルを継続して行うことで、顧客接点管理の効果を最大化します。
なお「9. KPIの測定と分析」については、マーケティング施策が他にも並行して実施されている場合、単独での効果を測定することが難しいかもしれません。下記のようなKPI(主要業績評価指標)を用いると、比較的測定がしやすくなります。
ネットプロモータースコア(Net Promoter Score, NPS): 顧客が企業や製品を他者に推薦する意向を測る指標です。全体のNPSだけでなく、特定の接点やジャーニーのステージごとにNPSを分けて測定すると、改善策の影響を評価しやすくなります。
リピート購入率(Repeat Purchase Rate): 特定の期間内に再購入した顧客の割合です。リピート購入率の変化を見ることで、顧客ロイヤルティの向上を評価できます。
顧客離反率(Customer Churn Rate): 顧客がサービスを停止したり、ブランドから離れたりする割合です。特定の改善施策後に顧客離反率が低下したかどうかを測定することで、施策の効果を判断できます。
これらのプロセスを実践することで、企業は顧客接点管理を効果的に行い、顧客体験の向上やビジネス成長につなげることができます。最終的には、顧客が望む体験や価値を提供することで、企業と顧客との強固な関係を築くことを目的としています。
5. 顧客接点管理のメリットとデメリット
5.1 メリット
顧客接点管理を行うことで、以下のようなメリットが生まれます。
/ 顧客体験の向上 /
1. 短期的な顧客満足度の向上: 顧客接点管理を適切に行うことで、顧客が企業とのコミュニケーションやサービス体験に対して良い感情を持ち、顧客満足度を高めることが期待できます。これにより、顧客のリピート購入や口コミによる推奨が促進されます。
2. 長期的な顧客ロイヤルティの強化: 各接点で一貫した高品質の体験を提供することで、顧客が企業に対して長期的なロイヤルティを持つようになります。これにより、競合他社への乗り換えを防ぐことができます。
/ データ活用とマーケティング効果 /
3. 顧客インサイトの向上: 顧客接点管理を通じて収集したデータを分析し、顧客の購買履歴や行動パターンを理解することで、顧客のニーズや期待に応じたサービスを提供できます。
4. パーソナライズドマーケティングの実施: 収集した顧客データを活用し、個々の顧客に合わせたパーソナライズドなマーケティングメッセージやプロモーションを実施することで、マーケティング効果を最大化します。
/ ビジネスの成長と競争力強化 /
5. ブランド価値の向上: 一貫した顧客体験を提供し続けることで、ブランドイメージが向上し、企業の価値が高まります。これにより、競合他社との差別化が図られ、新規顧客の獲得にもつながります。
6. 市場への迅速な対応: 顧客接点管理を通じて得られるフィードバックやデータを基に、市場の変化に迅速に対応する能力が向上します。これにより、企業は常に競争力を維持・強化することができます。
7. クロスセルとアップセルの促進: 顧客の購買履歴や関心を把握し、それに基づいて関連商品やサービスを提案することで、クロスセルやアップセルの機会を増やし、売上を向上させます。
5.2 デメリット
顧客接点管理を行う際に、以下のようなデメリットが発生する可能性があります。
/ コストとリソースの負担 /
1. コストの増加: 顧客接点管理を適切に実施するためには、システムや人員などのリソースを確保しなければなりません。これにより、企業のコストが増加する可能性があります。
2. 複雑な管理プロセス: 顧客接点管理を行うには、様々な部門やチーム間での連携が求められます。そのために管理プロセスが複雑化し、企業の運営に負担がかかる可能性があります。
/ データとプライバシーの懸念 /
3. プライバシーの懸念: 顧客接点管理では、顧客の個人情報や行動データを収集・分析することが一般的です。このため、プライバシーに関する法規制や顧客の懸念に対応する必要があります。適切な対策が取られない場合、顧客からの信頼を失うリスクがあります。
/ 顧客対応の課題 /
4. 過剰なマーケティング活動: 顧客接点管理を通じて顧客データを活用する際に、過剰なマーケティング活動やプロモーションを行ってしまうことがあります。これは、顧客に対して押しつけがましい印象を与え、逆に顧客満足度やロイヤルティの低下を招いてしまいます。
/ 効果測定の難しさ /
5. 効果の測定が困難: 前述しましたが、顧客接点管理の効果を正確に測定することは容易ではありません。多くの要因が絡むため、どの施策が効果的であるかを判断することが難しく、最適な戦略の策定に時間や労力がかかることがあります。
これらのデメリットを克服するためには、企業は適切なリソースの投入や効果測定方法の確立、顧客のプライバシーに配慮した対応策の実施などが求められます。
6. まとめ
6.1 顧客接点管理の今後の可能性
顧客接点管理の今後について、以下のようなトレンドが考えられます。
1. デジタルトランスフォーメーション(DX)の発展:企業がDXを進めることで、顧客データの収集・分析が容易になり、より効果的な顧客接点管理が可能になります。AIや機械学習の活用により、顧客の行動パターンやニーズを予測し、パーソナライズされた対応がさらに進化していくものと考えられます。
2. オムニチャネル戦略の強化:顧客はオンラインとオフラインの境界を越えてシームレスな体験を求めており、企業はオムニチャネル戦略をより一層強化する必要があります。オムニチャネル戦略を通じて、顧客接点管理において一貫した顧客体験を提供し、顧客満足度やロイヤルティの向上を目指します。
3. モバイルファーストのアプローチ:スマートフォンの普及に伴い、顧客接点管理においてモバイルファーストのアプローチがますます重要になります。企業は、モバイルアプリやウェブサイトの最適化を通じて、顧客の利便性を向上させ、エンゲージメントを高めることが求められます。
これらのポイントを踏まえた顧客接点管理が、企業にとっての競争力向上や顧客満足度の向上につながります。今後も新たな技術や戦略が登場することが予想されるため、企業は柔軟な対応が求められるでしょう。