宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
顧客が離反するタイミングを見つけ出す
どの企業も、新規顧客の獲得については力を入れるのですが、既存顧客が競合他社へ乗り換えることについては、あまり対策をしていません。
新規顧客の獲得するコストと、既存顧客の離反を防止するコストとを比較すると、どう考えても離反防止の方が安くつきます。
既存顧客が離反するタイミングというものがありますので、今回はそれを管理する方法を見ていきましょう。
目次
1.1 ひとつの失敗が離反を招く
1.2 顧客接点管理の5つのステップ
2. 顧客接点を管理する理由とは?
2.1 競合他社への乗り換えが減る
2.2 新たな接点で顧客満足度を高める
2.3 ブランドイメージを確立する
3. まとめ
3.1 常に顧客から見られていることを忘れない
1. 顧客接点管理で離反を抑えろ
1.1 ひとつの失敗が離反を招く
顧客接点管理とは、顧客が企業と接するポイントを管理することで、顧客の満足度を高め、競合他社への乗り換えを防ぐことを目的としています。営業マンや販売員の接客はもちろんのこと、コールセンターでの会話や、Webサイトのユーザビリティなども管理対象となります。顧客のライフタイムバリュー(生涯価値)の最大化を図ることが、最終的な目的です。
数ある顧客接点のなかで、たった一箇所でも合格点に達することが出来なければ、顧客は簡単に競合他社へ乗り換えます。新規顧客への販売コストは、既存顧客への販売コストの「5倍」だと言われています。既存顧客の離反防止が、いかに業績に直結するのかが解ります。
1.2 顧客接点管理の5つのステップ
この顧客接点管理を行うには、5つのステップがあります。それぞれの顧客接点に点数を付けるのですが、これは全てを総花的に改善するよりも、改善の効果が大きいと予想できる所に、リソースを注力させるためです。この点数により取捨選択を行います。
1.顧客接点を洗い出す
最初のステップとして、全ての顧客接点を洗い出す必要があります。顧客が商品やサービスを目にするポイントを全て書き出してください。顧客訪問、カタログ、Webサイト、コールセンターなどがそれに相当します。ただし、不特定多数に対しているイベントなどは、除外しても構いません。
2.重要度に点数をつける
全ての顧客接点を洗い出したら、それに対する重要度を数値化してください。5段階評価で良いと思います。対面での体験は購買行動に大きな影響を及ぼします。「営業マンの訪問」と「カタログを読む」行為とでは、当然ながら重要度が異なります。
3.品質に点数をつける
次に顧客接点に対して、品質の観点から点数をつけてください。一旦は経営者の主観で、点数を付けていただいて結構です。顧客接点管理は継続して実施するものですので、アンケート調査の結果などの客観的な数値に、少しずつ置き換えていけば良いでしょう。
4.重要度が最も高い顧客接点を改善
顧客満足度を高めるためには、重要度が高い顧客接点の品質を改善することが、一番の近道です。満点にならなかった理由を洗い出し、改善策を検討します。具体的には、この顧客接点を担当している人たちに対して、個別のヒアリングを行ってください。これにより、さらに顧客満足度を高める方法を探り出すことができます。ただし大勢が参加するような、会議形式では実施しないでください。声が大きい人や、よく喋る人の声だけが反映されるため、正しく現状を把握できません・・・要注意です。
5.品質が最も低い顧客接点を改善
顧客の離反を防ぐには、この部分の改善が最も重要です。品質が一番低い顧客接点から、顧客が離反するケースが最も多いからです。こちらも担当者に個別のヒアリングを行い、改善策を検討します。多くの場合、品質が低いのは個人個人の対応に問題があるのではなく、業務を支援する仕組みがないことに問題があります。人数を増やしたり、IT化を進めることなどで、多くの場合は対処することが出来ます。
2. 顧客接点を管理する理由とは?
2.1 競合他社への乗り換えが減る
顧客が競合他社へ乗り換える原因は、企業側から見ると些細なことのように思えます。しかし顧客側はこの顧客接点を重要視しているのです。企業と顧客の意識レベルのギャップこそが、解決するべき課題なのです。
顧客接点管理を実施することで、顧客からの目線をより深く理解することができるようになります。これにより、競合他社への乗り換えを減らすことが出来ます。
2.2 新たな接点で顧客満足度を高める
顧客接点を利用して、顧客満足度を高めることも可能です。最近のアイドルグループは、握手会を実施していますが、これは新たに顧客接点を設けて、そこでの満足度を高めようという試みだと言えます。好きなアイドルと握手することができるという体験は、そのファンからすると、とても高い満足度が得られますので、さらにコアなファンになってもらえることが期待できます。
企業に当てはめるなら、商品やサービスを通じて、顧客と企業とがつながるコミュニティーを作る方法があります。キャンプ用品の製造販売を手掛けているスノーピーク社は、顧客を集めて実際にキャンプをするイベントを行っています。また、自動車メーカーの中には、既存ユーザーを集めて商品企画会議を行っている企業もあります。このような活動のことを「アンバサダー・プログラム」と呼ぶことがあります。
2.3 ブランドイメージを確立する
インターネットやスマートフォンなど、テクノロジーが進歩するに従って、顧客接点は増える傾向にあります。しかしながら、増えた顧客設定に対して、個別で対応してしまうため、発信するメッセージに一貫性がない企業が多く見られます。顧客からすると、接するたびにイメージが変わると行ったことも少なくありません。
これはブランドが多数あることに加えて、ブランド・マネージャーがある一定期間でローテーション(異動)することにも原因があります。新しい担当者は、なにか自分のオリジナリティーを付け加えたいと考えるため、コンセプトにズレが生じることがあります。顧客接点管理で横串を刺すことで、顧客に対するメッセージに一貫性をもたせ、しっかりとしたブランドイメージを確立することが大切です。
3. まとめ
3.1 常に顧客から見られていることを忘れない
顧客はあらゆる方向から企業の活動を見ています。その活動のうち、たったひとつでも気に入らないことがあれば、簡単に競合他社へ乗り換えてしまいます。
それを防止するためには、重要度の高い顧客接点の品質を高めることと、また品質が低い顧客接点を仕組みとして改善すること、これらを同時並行的に行う必要があります。
新規顧客を開拓するよりも、既存顧客を手厚くフォローする方が、最終的には企業の利益につながるのです。