宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
ビジネスアカウントの投稿が拡散しないワケ
SNSとWebサイトを比較した場合、SNSの方が制作や運営にかかるコストを安く抑えることができるため、企業の販促などで利用されることが多くなってきています。
ただ情報伝達の観点から見た場合、ビジネスアカウントからの投稿が、世の中に拡散していくということは、まずありえません。拡散する情報の起点は、必ず消費者からです。
今回はSNSを販促ツールとして使うには、どのような方法が効果的なのかを探ってみたいと思います。
(たま〜〜〜にですが、納品したARを使って撮影された動画が、SNSで拡散されていてチョット驚く・・・が、仕事が増えるわけではない。)
目次
1.1 SNSは既に国民のインフラ
1.1.1 Facebook
1.1.2 Twitter
1.1.3 Instagram
1.1.4 LINE
2. SNSにおける情報伝達の構造
2.1 企業の投稿が拡散することはない
3. オーガニックリーチを増やせるのか?
3.1 サプライズを積み重ねる
3.2 埋没課題を知れ
4. 自社の方向性をお客様と共有する
4.1 信念を共有するメッセージ構造
5. まとめ
5.1 サプライズの積み重ねが大切
1. SNSの利用者数と口コミ拡散の構造
1.1 SNSは既に国民のインフラ
名称 | 全利用者数 | 国内利用者数 |
14億9,000万人 | 2,800万人 | |
3億2,600万人 | 4,500万人 | |
10億人 | 2,900万人 | |
LINE | 2億1,700万人 | 7,800万人 |
出展:【2019年2月更新】人気SNSの国内&世界のユーザー数
これはSNSの全利用者数と、日本国内の利用者数を表したものです。若い世代に人気のあるInstagramは、国内で既に2,000万人のユーザーを確保しており、またLINEに至っては7,500万人が利用しているなど、SNSは、既に国民のインフラと言って良いでしょう。それでは簡単に利用状況を見てみましょう。
1.1.1 Facebook
全世界での利用者数は約15億人と、他のSNSと比較して群を抜いている存在なのですが、日本国内の利用者は2,800万人と、いまひとつ振るわない状況です。実名での登録が基本ですので、シャイな日本人にはあまり向かないSNSだといえます。若年層の利用者が少なく、中高年層が多いというのも特徴の一つだと言えます。
1.1.2 Twitter
全世界での利用者数が3億3,600万人に対して、国内の利用者数は4.500万人。匿名での投稿が特徴です。先ほどのFacebookとは逆に、実名で登録する必要がないため、日本人に向いたSNSだと言えます。ただ一部の有名人が膨大なフォロワーを持っているため、有名人の投稿が爆発的に拡散する傾向にあります。一般ユーザーの投稿が拡散する場合は、その有名人にリツイートされたケースが、かなりの部分を占めます。
1.1.3 Instagram
若年層に人気のInstagramですが、日本国内の利用者数が2,900万人と、ついにFacebookを上回る存在になりました。他のSNSとは違って、文字ではなく写真を投稿することが基本ですので、文章を考える必要がないというお手軽さから、利用者を伸ばしています。InstagramはFacebookの子会社になっていますので、広告などの出稿は一元管理されていますし、最新のAR(Augmented Reality / 拡張現実)などについては、機能統合が進んでいます。
1.1.4 LINE
日本国内の利用者が7,8000万人と、ダントツのシェアを誇っています。友だち同士のチャットが簡単に行えることに加えて、インターネット回線を使った無料会話の機能や、意思の疎通が図りやすいスタンプの存在なども、利用者の増加に寄与しています。既読率の高さからビジネスでの利用も進んでいます。海外での利用者が約2億人しかいないのは、利用している国がアジア圏に限られているためです。全世界で見ると利用者数が10億人を超えるWhatsAppが大きなシェアを持っています。このWhatsAppもInstagramと同様に、現在はFacebookの傘下にあります。
ビジネスでこれらのSNSを利用する際には、自分のお客様がどのSNSを利用されることが多いのかを把握する必要があります。それにはまず自分のお客様が明確になっていないといけません。
年齢、性別、職業といった人口統計学的なデモグラフィック属性に加えて、どのような課題を持っているのか、インターネットやSNSでどんな情報を得ようとするのかなど、行動様式も把握しておく必要があります。
2. SNSにおける情報伝達の構造
2.1 企業の投稿が拡散することはない
企業がSNSを使ったプロモーションを行う場合、情報が伝達される構造について、正しく把握しておく必要があります。
SNSで情報が伝達されるという場合、この図のような伝達経路を想像される方が多くいます。
- あなたがSNSに自社の商品やサービスを投稿
- それを見たお客様が友だちにシェア
- 友だちがさらにその友だちにシェア
現在のインターネットには、あまりにも膨大なデータが存在していますので、企業の投稿はことごとくスルーされてしまいます。あなたの投稿がお客様に届いても、それが更に拡散するようなことはないのです。それにも関わらず、多くの企業はいつか自分たちの投稿も、拡散してもらえる日が来るだろうと考えて、投稿を続けています。
もちろん情報の拡散を目的とするのではなく、既にフォロワー登録や友だち登録していただいたお客様に対して、自社の商品情報を提供するのであれば、なんら問題ありません。逆に効果的なプロモーションであると言えます。使い方を間違わないように気をつけてください。
今度は情報が拡散していくケースについて見ていきましょう。
- お客様があなたから商品やサービスを購入
- お客様は商品やサービスで驚きの体験をする
- 誰かに知らせたいと思いSNSに投稿
- 友だちがさらにその友だちに投稿をシェア
前述の図と大きく異なるのは、情報の発信元が企業ではないということです。商品やサービスはあなたの会社のものですが、その情報を発信しているのはあなたのお客様なのです。お客様が自発的にあなたの商品を自分の友だちに紹介する、これをオーガニックリーチと呼びます。
企業が考えるべきことは、いかに面白い投稿をするのかではなく、どうすればこのオーガニックリーチを増やせるのかなのです。
3. オーガニックリーチを増やせるのか?
3.1 サプライズを積み重ねる
それでは、自社の商品やサービスを、お客様に情報発信いただくにはどうすればいいのでしょうか。オーガニックリーチを増やす方法について考えてみましょう。ここで質問です。
「あなたはどんなときにSNSに投稿しますか?」
最近は「インスタ映え」と言いますが、チョットしたサプライズがあったときに投稿されるケースが多くなっています。サプライズについては、既にネタバレしていて、演技をしている場合も少なくありませんが、いずれにせよSNS経由でサプライズを伝えたいのです。
友だちにシェアをするかどうかは、商品やサービスの使用時に、どのくらい驚いたに依存するのであれば、企業としては積極的にそれを増やしてあげることが、情報拡散へとつながるのです。
ただ、1回のプロモーションで、お客様が声を出すほどのインパクトを与えることができれば良いのですが、なかなかそうもいきません。従って企業が目指すべきは、小さなサプライズを積み重ねることによって、友だちにシェアをしていただくことです。何本もの藁を積んでいく訳です。
どのようなサプライズが効果的なのかは、企業が置かれている状況が異なるために一概には言えませんが、ひとつだけ気をつけていただきたいことがあります。
それはお客様があなたの会社に期待するものと、同じベクトルを持ったサプライズであるということです。ただビックリさせれば良いのではありません。
「お仕事頑張ってください!」と書かれたコーヒーショップの紙コップ。タクシーを拾いに全力で大通りまで走るホテルのベルボーイ。これらのように、自社の方向性と同じベクトルを持ったサプライズが必要です。
3.2 埋没課題を知れ
お客様が期待する方向性を外さないためには、お客様はなぜあなたから商品やサービスを購入するのか、もう一度、丁寧に調べなくてはなりません。
美容室に期待されているのは、「髪を切る」ということではなく、来週のプレゼンを成功させるために「清潔感を出したい」と言うことなのかもしれません。
この目に見えている「髪を切る」を表層課題、また一見しただけでは解らない「清潔感を出したい」を埋没課題と呼んでいます。
この埋没課題の解決こそが、お客様があなたへ期待する方向性です。「清潔感を出したい」のであれば、爽やかな香りのする化粧水の試供品や、前日によく眠れるように1回分の入浴剤をプレゼントすることなども、小さなサプライズなるかも知れませんし、
自社と同じ方向性を持った、小さなサプライズを積み重ねることこそが、お客様から本当の信頼を得る唯一の方法なのです。
4. 自社の方向性をお客様と共有する
4.1 信念を共有するメッセージ構造
小さなサプライズを積み重ねるにあたって大切なことは、あなたの会社の方向性をお客様と共有しておくことです。あなたは、なぜこのビジネスを行っているのか、その信念やこだわりを伝えるのです。
下記は架空の美容室のコマーシャルメッセージです。メッセージAは美容室の名前を伝えて、その後に差別化できる要因を並べている、ごく一般的なメッセージ構造です。一方、メッセージBはまず始めに自分たちの「信念」を伝えています。
<メッセージA>
- 美容室 ◯◯◯
- 丁寧なカウンセリング、高いカットの技術、洗練された接客
- ご来店をお待ちしております。
<メッセージB>
- ふさぎ込んだとき、元気が出ないとき、私たちのことを思い出してください。お帰りになるときには笑顔になっているはずです。
- 丁寧なカウンセリング、高いカットの技術、洗練された接客
- 美容室 ◯◯◯
- ご来店をお待ちしております。
メッセージBの方が心に響くと思います。まず信念を伝えて、それに共感する人にサービスを提供する。この販促のメッセージ手法は、米国のコンサルタントであるサイモン・シネック氏が考案した、ゴールデンサークルに基づいています。
「信念」が響くと人はそれを誰かと共有したくなります。この共有したくなる気持ちこそが、SNSであなたのことを拡散してくれる原動力となるのです。あなたもこの信念を伝えるプロモーションを実践してみてはいかがでしょうか。
5. まとめ
5.1 サプライズの積み重ねが大切
企業がSNSを活用する上で最も大切なことは、自らが面白い投稿をすることではなく、お客様に自分の言葉で商品を語ってもらう、オーガニックリーチを増やすための仕掛けを作ることです。
お客様の課題を洗い出し、自社のベクトルと同じ方向性を持ったサプライズを用意しなくてはなりません。また自社のベクトル、いわゆる「信念」や「こだわり」について、お客様とシッカリ共有しておく必要があります。
どうすればお客様に応援してもらえるのか、それを常に念頭に置いてSNSを活用することが、ファンを増やすための近道なのです。
(次の料理が来たら写真を撮ってインスタに上げるぞ・・・と思っているのですが、気がついたら食べ始めています。)