1. 背景
H社は企業向けの市場調査、業界分析、経営アドバイザリーを提供するリサーチ&アドバイザリー企業です。これまで大手企業を中心に安定した顧客基盤を持っていましたが、既存顧客からの売上が徐々に減少し、新規市場開拓およびリテンション強化が喫緊の課題となっていました。
特に問題となっていたのは、「ピンポイントの知見を提供するだけで終わり、追加契約やサービスの継続利用につながらないケースが増加している」という点です。営業担当者ごとに顧客へのアプローチ方法が異なり、アカウントプランは形式的に作成されるだけで、実際の営業活動に活用されていない状況でした。
2. 課題
H社が直面していた主な課題は以下の3点です。
● 顧客ごとの課題理解の浅さ
顧客の課題を表面的なニーズにとどめ、「どの意思決定層に、どの価値を、どのタイミングで提供すべきか」が曖昧になっていました。
● 営業活動の属人化
担当者ごとの経験や人脈に依存した営業スタイルが主流で、組織的なナレッジ共有が進んでいない状況でした。
● アカウントプランの非活用
一応のフォーマットは存在するものの、年に一度形式的に作成されるだけで、実際の営業活動にはほとんど活用されていませんでした。
3. トレーニング
H社は、これらの課題を解決するために「アカウントプラン作成トレーニング」を導入し、以下のプロセスを実施しました。
● 現状分析と課題特定
営業マネージャーおよび主要なアカウント担当者へのインタビューを通じて、営業活動とアカウントプラン運用の実態を可視化。顧客戦略の策定が個人任せになっていることが、成果のバラつきに直結していると分析しました。
● アカウントプランの再設計
顧客戦略を体系的に整理するため、「顧客の組織構造分析」「意思決定プロセスの可視化」「価値提案のカスタマイズ」を中心とした新しいアカウントプランのフォーマットを設計しました。特に、意思決定者マッピングと影響力の可視化を強化しました。
● 実践型ワークショップ
実在の重要顧客をケースとして、アカウントプランの策定から提案戦略の構築までをワークショップ形式で実施。競合分析や顧客の意思決定パターンに基づいた提案アプローチを具体化しました。
● 継続的なレビューとフィードバック
トレーニング後も、四半期ごとのアカウントプランレビューを実施し、顧客戦略の進捗と課題を定期的に確認。営業活動の中でアカウントプランが「生きたツール」として機能する仕組みを構築しました。
4. 成果
トレーニングの導入後、H社は以下の成果を達成しました。
● 大型契約率の向上
重要顧客への戦略的アプローチにより、大型契約の獲得率が15%から35%へと向上。
● クロスセルの促進
顧客理解の深化によって、既存顧客へのクロスセルおよびアップセル案件が40%増加。
● 営業活動の可視化と標準化
営業プロセスが標準化され、新任担当者でも短期間で成果を出せる体制を構築。
● 顧客リテンション率の向上
戦略的なアカウント管理により、既存顧客の解約率が20%改善し、長期的な顧客関係の強化に成功しました。
まとめ
この事例は、無形の情報価値を提供する企業であっても、アカウントプランの標準化が営業成果に直結することを示しています。H社は、個々の営業担当者のスキルだけに依存しない、組織として再現性のある営業モデルを確立し、持続的な事業成長を実現しています。