機能や品質で差別化できないワケ - オーセンティックマーケティングで成功するための実践方法

オフィスの会議室でグラフが書かれた書類にペンで書き込みをする画像。その上に「機能や品質で差別化できないワケ - オーセンティックマーケティングで成功するための実践方法」と書かれている。

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

HoneywellExperianTeradataAvanadeSAS Institute などの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


ビジョンや信念を伝えるマーケティング施策

現代の市場では、製品やサービスの機能がどれほど優れていても、それだけでは顧客の心をつかむことが難しくなっています。技術の進化やグローバル化により、類似した機能を持つ競合製品が次々と登場し、機能面での差別化が一層困難になっているからです。そこで注目されるのが「オーセンティックマーケティング」です。

 

オーセンティックマーケティングとは、企業やブランドが持つ独自のビジョンや信念を前面に押し出し、顧客との深い信頼関係を築くことを目的としたマーケティング手法です。この手法は、単なる機能や価格競争から脱却し、顧客が本当に共感できる価値を提供することで、強固なブランドロイヤルティを生み出します。

 

本記事では、オーセンティックマーケティングの基本概念を解説し、実際の成功事例を通じてその効果を具体的に示します。企業がどのようにして機能に頼らない差別化を実現し、顧客との真の関係を築いているのか、その秘訣に迫ります。

 

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「また、ビジョンと信念か・・・」そう思われたあなた。

私は首尾一貫しているのです(^^)/



目次


1. オーセンティックマーケティングとは何か


3体の人形を両手で持つ白い服の人

1.1 オーセンティックマーケティングとは


オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)は、企業と顧客の間に真の信頼関係を築き、長期的な関係性を深めることを目的としたマーケティング手法です。2000年代初頭に生まれ、消費者が企業の価値観や社会的責任をより重視するようになった2010年代に注目を集め始めました。

 

伝統的なマーケティングが製品やサービスの魅力を前面に押し出すのに対し、オーセンティックマーケティングは、企業の価値観や使命感を正直かつ透明に示し、顧客に対して誠実に向き合うことを重視します。これにより、顧客が企業に共感し、信頼を深めることでブランドロイヤリティの向上が期待できるのです。

 

オーセンティックマーケティングの実践には、次の4つの重要な要素が含まれます:

 

1. 一貫性:企業のビジョンやミッションを明確にし、それらを全ての活動やコミュニケーションで一貫して伝えることです。これにより、企業が顧客に対して変わらない価値を提供する姿勢が伝わり、信頼の基盤が強固になります。

 

2. 透明性:企業の活動や意思決定のプロセスを顧客に開示し、必要な情報を正確に共有することです。透明性を保つことで、顧客は企業の意図や行動に対して理解を深め、信頼を寄せるようになります。

 

3. 共感:顧客のニーズや価値観を理解し、その視点に立って行動する姿勢です。顧客の声に耳を傾け、彼らが感じる課題に共感し、それに応えることで、顧客との間に深い結びつきが生まれます。

 

4. 誠実さ:顧客や社会に対する誠実な姿勢を示し、倫理的で持続可能な方法で事業を行うことです。企業が利益だけでなく、社会や環境に対する責任を果たすことで、長期的な信頼が得られます。

 

これらの要素を通じて、オーセンティックマーケティングは単なる売上向上を目指すマーケティング戦略に留まらず、企業が顧客と共に成長し、信頼と共感に基づく持続的な関係を築くためのアプローチとなります。


1.2 なぜ注目を集めているのか?


オーセンティックマーケティングが注目を集めている背景には、消費者の価値観や市場環境の変化が大きく影響しています。以下の要因が特に重要です。

 

1. 消費者の意識変化:現代の消費者は、単なる製品やサービスの品質や機能だけでなく、自分自身の『価値観』に合致する企業の価値観や行動にも強い関心を持つようになっています。消費者は、企業の社会的責任(CSR)や環境への配慮、労働条件の改善などに敏感であり、企業の誠実さや透明性を重視しています。オーセンティックマーケティングは、こうした消費者の期待や価値観に応える手法として有効です。

 

2. 信頼の重要性:インターネットやSNSの普及により、企業と消費者との間の情報の非対称性が減少し、企業の行動がより透明に見えるようになりました。その結果、企業が信頼を築くことの重要性が増しています。信頼を得ることで、消費者はブランドに対してより深いロイヤリティを感じ、リピート購入や口コミによる新規顧客の獲得が期待できます。

 

3. 競争の激化:市場が成熟し、競争が激化する中で、単に製品やサービスの差別化だけではなく、企業の価値観やビジョンによる差別化が求められるようになりました。オーセンティックマーケティングは、企業の独自性を強調し、競合他社との差別化を図る効果的な手段となります。

 

4. 長期的な関係構築:短期的な売上向上を目的とした従来のマーケティング手法とは異なり、オーセンティックマーケティングは長期的な視点で顧客との関係を築くことを重視します。これにより、顧客のライフタイムバリューを最大化し、持続的な成長を実現します。

 

 

これらの要因により、オーセンティックマーケティングは現代の企業にとって不可欠なマーケティング手法として注目を集めています。



2. オーセンティックマーケティングの活用事例


木のテーブルに置かれた眼鏡。フレームはブラウン。

2.1 具体的な活用事例:Warby Parker


オーセンティックマーケティングを成功させるためには、顧客の信頼を得ることが非常に重要です。そのためには、自社が提供する商品・サービスや企業理念に対して真摯に向き合う必要があります。以下に、オーセンティックマーケティングを実践している企業の事例紹介します。

 

● 背景

Warby Parkerは、2010年にアメリカで設立された眼鏡ブランドです。設立当時、眼鏡の購入プロセスは煩雑であり、価格も高額であることが一般的でした。創業者たちは、この状況を改善するために、手頃な価格でスタイリッシュな眼鏡を提供し、購入体験を革新的に変えることを目指しました。

 

 

● 戦略 

Warby Parkerは、以下のような戦略を採用しました。 

  • オンライン販売と試着サービス:顧客が自宅で複数のフレームを試着できる「Home Try-On」プログラムを導入しました。これにより、顧客は店頭に行かずに自宅で気軽に眼鏡を選ぶことができました。
  •  手頃な価格設定:高品質な眼鏡を低価格で提供するために、中間業者を排除し、直接顧客に販売するD2C(Direct-to-Consumer)モデルを採用しました。
  •  社会貢献活動:「Buy a Pair, Give a Pair」プログラムを実施し、顧客が眼鏡を購入するたびに、途上国の貧困層に眼鏡を提供しました。この取り組みにより、社会的責任を果たしつつ、ブランドの価値を高めました。

 

 

● 成果

  • 急速な成長:Warby Parkerは設立から数年で急速に成長し、オンライン販売のみならず、実店舗も多数展開するようになりました。 
  • 高い顧客満足度:顧客の眼鏡購入体験を大幅に改善し、高い満足度を得ることに成功しました。 
  • 社会貢献の実績:数百万人に上る途上国の人々に眼鏡を提供し、視力改善を支援しました。

 

 

● 成功要因

  • 顧客中心のアプローチ:顧客のニーズに寄り添ったサービスを提供し、購入体験を大幅に向上させたことが、顧客の信頼とロイヤリティを築く鍵となりました。
  •  革新的なビジネスモデル:D2Cモデルとオンライン試着サービスの導入により、低価格で高品質な商品を提供し、従来の眼鏡業界の課題を解決しました。
  •  社会貢献活動:社会的責任を果たす取り組みが、ブランドの信頼性と価値を高め、多くの顧客から支持されました。
  •  マーケティングとブランディング:スタイリッシュなデザインと一貫したブランドメッセージを通じて、強いブランドイメージを確立しました。

 

 

 

このように、Warby Parkerは顧客のニーズに応える革新的な戦略と社会貢献活動を通じて、オーセンティックマーケティングの成功事例として広く認知されています。



3. オーセンティックマーケティング:ここを押さえろ!


POINTと書かれた積木とその上で光る電球

3.1 オーセンティックマーケティングを成功させる4つの質問


オーセンティックマーケティングを実践するためには、企業が持つ独自性や強みを明確にし、それを顧客に伝えることが大切です。そのためには、まず自社のビジョンや価値観を再度明確化し、それをマーケティング戦略に反映させることが重要です。以下の4つの質問を通じて考えることで、具体的なアクションプランを立てる際に役立ちます。

 

質問1:自社の価値観やミッションは何か?

自社の価値観やミッションを明確にすることは、オーセンティックマーケティングを推進する上で非常に重要です。企業がどのような価値観を持ち、どのような目的を持っているのかを明確にすることで、顧客に対して誠実で真摯な姿勢を示すことができます。

 

質問2:自社のブランドの強みとは何か?

ブランドの強みを特定し、それに焦点を当てることもオーセンティックマーケティングを進める上で重要なポイントです。企業が提供する商品やサービスの中で、他社にはない強みを持っている部分があれば、それを強調し、顧客にアピールすることが必要です。

 

質問3:顧客との信頼関係は築けているか?

顧客との関係を重視し、誠実さと信頼性を確保することもオーセンティックマーケティングに欠かせないポイントです。顧客とのコミュニケーションを重視し、顧客が抱える問題や不安に対して真摯に向き合い、解決策を提供することが大切です。

 

質問4:顧客との対話は活発か?

最後に、さまざまなメディアを活用して、顧客との対話を促進することがオーセンティックマーケティングを進める上で重要です。企業は、顧客が利用するさまざまなメディアを活用し、顧客とのコミュニケーションを積極的に行う必要があります。顧客との対話を通じて、顧客が本当に必要としているものを把握し、それに応えることができるようになります。

 

オーセンティックマーケティングでは、単なる商品やサービスの売り込みにとどまらず、顧客のニーズや問題を解決することにフォーカスを当てることが求められます。



4. オーセンティックマーケティングの実装ステップ


Implementation stepsの文字と5つの木の階段(ステップ)

4.1 実装するための具体的なステップ


オーセンティックマーケティングを実践するための具体的なステップを見ていきましょう。企業の状況によって異なる場合もありますので、参考としてご活用ください。

 

1. 計画フェーズ (Planning Phase) 

  • 価値観とミッションの再定義: 企業のコアバリューやミッションを再確認し、明確化します。これにより、オーセンティックマーケティングの基盤を確立します。 
  • 目標設定: 長期的および短期的なマーケティング目標を設定します。具体的なKPI(重要業績評価指標)を定め、進捗を測定する基準を作ります。
  • 市場調査: ターゲット市場の調査を行い、顧客のニーズや期待を理解します。また、競合他社の分析も行い、自社の強みを特定します。
  • 戦略策定: 企業の価値観やミッションに基づいたマーケティング戦略を策定します。顧客との信頼関係を築くための具体的なアプローチを決定します。

 

 

2. 準備フェーズ (Preparation Phase) 

  • 内部コミュニケーションの強化: 社内全体でオーセンティックマーケティングの意義と目的を共有します。従業員向けの研修やワークショップを実施し、一貫したメッセージを伝えます。
  • 透明性の向上: 企業の活動やプロセスに関する情報を公開する準備をします。透明性を高めるための内部システムやツールを整備します。 
  • コンテンツ作成: 企業の価値観やミッションを伝えるためのコンテンツを作成します。ブログ記事、ビデオ、SNS投稿など、様々なメディアを活用します。 
  • CSR活動の計画: 社会貢献活動の計画を立て、具体的なアクションプランを作成します。これにより、企業の社会的責任を果たす取り組みを明確にします。

 

 

3. 実施フェーズ (Execution Phase)

  • マーケティングキャンペーンの展開: 計画に基づき、オーセンティックマーケティングキャンペーンを実施します。顧客との対話を促進し、価値観を共有するコンテンツを配信します。 
  • 顧客とのコミュニケーション強化: 顧客からのフィードバックを積極的に収集し、応答します。SNSやメール、カスタマーサポートなど、様々なチャネルを活用します。 
  • イベントやワークショップの開催: 企業と顧客が直接交流できるイベントやワークショップを開催します。これにより、顧客との深い関係を築きます。 
  • CSR活動の実施: 計画した社会貢献活動を実行し、その成果を公開します。これにより、企業の信頼性を高めます。

 

 

4. モニタリングフェーズ (Monitoring Phase) 

  • KPIの測定と分析: 設定したKPIに基づき、マーケティング活動の効果を測定します。データを収集し、分析することで、進捗を評価します。 
  • フィードバックの収集: 顧客や従業員からのフィードバックを継続的に収集します。これにより、改善点や成功点を把握します。 
  • 戦略の見直しと改善: フィードバックとデータ分析に基づき、マーケティング戦略を見直し、必要な改善を行います。これにより、より効果的なオーセンティックマーケティングを実践します。 
  • 報告と共有: マーケティング活動の成果や学びを社内外に報告し、共有します。これにより、透明性を保ち、信頼を維持します。

 

 

この実装ステップを通じて、企業はオーセンティックマーケティングを効果的に実践し、顧客との信頼関係を築くことができます。



5. オーセンティックマーケティングのメリットとデメリット


メリットとデメリット

5.1 メリット


オーセンティックマーケティングを実践することで、以下の4つのメリットが得られます。

 

1. ビジネスの長期的な基盤づくり:オーセンティックマーケティングによって、長期的なビジネス成功のための基盤を構築することができます。これにより、ビジネスの継続が確保され、経営環境や競争環境の変化に迅速に対応することができるようになります。

 

2. 顧客からの信頼を獲得:オーセンティックマーケティングにより、ブランドは顧客からの信頼を得て、ファンを獲得することができます。顧客は、企業が誠実であることを認め、ブランドに対して忠誠心を持つようになります。

 

3. 顧客との深い関係構築:オーセンティックマーケティングは、顧客と深い関係を築くことができるため、顧客のニーズや要望に合わせた製品やサービスを提供できます。これにより、顧客はブランドの価値観に共感し、リピート購入や口コミを促進することが期待できます。

 

4. 独自の優位性を獲得:オーセンティックマーケティングを実践することにより、顧客は企業が真剣に自分たちの価値観やニーズを考えていることを認識するようになります。これによって、顧客は商品やサービスの機能だけでなく、ブランドが持つ本当の価値を基準に購買行動を起こすようになります。


5.2 デメリット


オーセンティックマーケティングには多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。以下にそのデメリットを挙げます。

 

1. 実践の難しさ:オーセンティックマーケティングを実践するためには、企業の価値観やミッションを明確にし、それを一貫して伝える必要があります。このプロセスは時間と労力を要し、全社的な協力が必要です。また、企業の文化や理念が浸透していない場合、誠実さを顧客に伝えることが難しくなります。

 

2. 短期的な成果が見えにくい:オーセンティックマーケティングは、長期的な関係構築を重視するため、短期的な売上向上や即効性のある成果が期待できないことがあります。投資対効果が見えにくいため、企業によっては効果を実感するまでの期間が長く感じられることがあります。

 

3. 高い透明性の要求:顧客からの信頼を得るためには、高い透明性を保つ必要があります。これは、企業の内部情報や課題を公開することを意味し、競合他社にとっては有利な情報となる可能性があります。また、透明性を保つことは、企業にとってリスクが伴う場合もあります。

 

4. 一貫性の維持が難しい:オーセンティックマーケティングでは、企業のメッセージや行動が一貫していることが重要です。しかし、全ての部門や従業員が同じ価値観を共有し、行動することは難しい場合があります。特に企業が成長し、多様な人材が増えると、一貫性を維持することが困難になります。

 

 

 

これらのデメリットを理解し、適切に対応することで、オーセンティックマーケティングを効果的に実践することが可能になります。



6. まとめ


赤いハート形のオブジェを持つ手

6.1 ビジョンや信念を伝えることは簡単ではない


オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)を実践することによって、企業のブランド価値を高め、顧客との関係性を構築する方法を見てきました。しかし、オーセンティックマーケティングを実践するには、事前に十分な準備が必要であり、ステップを適切に実践することが重要です。

 

企業のビジョンや信念と一致したマーケティング戦略を立てること、そして、オーセンティックなコミュニケーションを実現するためには、社内全体で意識を高めることが重要です。

 

一朝一夕に実現できることではありませんので、それぞれのプロセスやステップを着実に踏んでいくことこそが大切です。